ゆきちゃんの
おいしい中国語

ゼン蒸/蒸す




香港の友達に食事に招かれた。学生寮のささやかな煮炊きの設備。どんな料理ができるのかなと、うろうろしていると、彼女は魚を蒸し始めた。「魚はね、蒸す時間が大切なの。」時計を見ながらぶつぶつ言う。「これくらいの魚は…。」やがて、熱々の蒸気が立ち上る中、彼女は厳かに魚を取り出す。刻んだネギとショウガを乗せ、熱したごま油を鍋ごと持ってくると「ちょっと離れて。」そばに貼りついている私を追い払い、彼女は一気に油を蒸魚に掛けた。ネギが焼ける香りがパッと立つ。醤油と酢をさらに掛け、香菜を少し乗せて、見事な料理が完成。彼女の得意そうな笑顔には「どうだい?」と大きな文字で書いてあった。
   半透明の皮の蝦の餃子、干椎茸や貝柱の風味豊かなシュウマイ…飲茶でも、熱々に蒸された料理は、どれも瑞々しく豊かな触感が残る。彼女の魚もまさにそうだ。香港の友達は言う。「蒸す時間が大切。特に魚はね。蒸しすぎるとパサパサして台なし。生っぽいのも論外。これはね、教えられないんだな。」
 鶏蛋羹(具なしの茶碗蒸)が好きな天津の友達は「これとご飯さえあれば、何もいらない」と言っていた。お母さんの味だそうだ。
 蒸魚、鶏蛋羹…友達は、熱々の湯気の向こうにお母さんのごちそうを思い出している。きっとそうだ。「どうだい?」きっと湯気の向こうで、彼女達のお母さんもそんなふうに微笑んだに違いない。
〈浅山友貴〉



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