旧暦・新暦
高喜美
(元・北京第二外国語学院)


イラスト/浅山友貴




 中国で生活していると、新暦(西暦)だけでは通らない。どうしても旧暦も頭にないと日程プランが立たない。12月に入ったらすぐカレンダーとにらめっこ。新年の元旦のプランじゃなくて春節、旧正月はいつになる?1月か2月?何日かと春節探し。太陽暦と月の欠け満つ計算の旧暦との食い違いにさじを投げ?来年のカレンダー探しに移る。旧暦は旧暦なりに一二月すなわち臘月にやることがあるから。私の家では8日の「臘八粥」は食べなくても「臘八蒜」、ニンニクを漬けたお酢は作る。それも少なくともビールびん2、3本は作る。この日に漬けとくと春節までに白いニンニクが緑がかりお酢にも風味が出、春節のギョーザを食べるのに間に合うというわけ。料理によっては調味料にも悪くない。
 とにかく旧暦の12月は新暦ではいつなのかを頭に入れなくては、プランはそれからだ。中国のカレンダーは必ず旧暦もついているし、立春立秋の24節気―暑さ寒さ四季気候の「目安」もごていねいに入っている。近ごろは前より重宝にしてる。年は争えないものだ。

 節日にごちそうはつきもの、古い都北京、食べ物に凝るのはなおのことである。春節のお節料理、今はお金さえ出せれば便利になったが15日の元宵(団子)節までの長い正月、お客のことを考えればやはりこしらえておく。これも臘月の大仕事。保存に天然冷蔵庫あり心配無用。春節と前後してくるのが立春。厳しい寒さは峠を越え、もう春遠からじと教えてくれる。
 立春は2月の4日(あるいは5日)だ。この日北京では「春餅(チュンビン)」を食べる。この春餅、そのおかずの内容も食べ方も凝っている。先に、中国語の「餅」とは小麦粉をこねて焼いて作った円盤型の主食。春餅はギョーザの皮みたいに薄く大きめの「餅」。おかずは千切りにした冷食のブタ肉製品いろいろ、それも北京特製の胃袋詰め「小肚」、タンあり鶏肉ありそれにほうれん草、もやし、黄韮―華北地方の温室特別栽培のニラ、春雨、卵それぞれの炒めたもの。食べる時は生ネギ、甘みそも添えて出す。食べ方は初めに春餅を皿に取りまずネギでみそをちょっと塗ったあと肉類を、次は青菜などとそれぞれ適量に全部取って乗せ最後に海苔巻式に巻き込み、開いてこぼれないよう端をはしで挟んで口に運ぶ。春餅とは特製の薄餅のことで食べるときに前記のおかずを全部巻き込みいっしょにして食べる餅なり、だ。
 去年の立春は春節の前の日だった。中国の正月祝いは大晦日の夜からで一家そろって年越しそばならぬ「年飯」を食べる。私の家では嫁いだ娘たちを一家で呼び―毎年だが―春餅が年飯に取って代わり、久しぶりにいっしょになった孫たちに喜ばれた。もちろん年飯料理はお土産。テレビといっしょにわいわい零時の旧正月を迎えギョーザを食べ終わってからお土産も忘れずに持ち帰っていった。



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