モノクロFAX
黎啓榕(新光貿易(株))


イラスト/浅山友貴




 中国の改革開放政策の開始後、若い層の意識改造が急テンポで進んできた。かつて国営企業で働いていた有能(?)な人たちは自分で新天地を開拓し、多くの「万元戸(年間所得が一万元を超す農家・個人経営者、高額所得者のこと)」を生み出し、「大鍋飯(勤務ぶりや能力に関係なく待遇が一律であること、悪平等のたとえ)」から脱皮した。「脳」ある者は爪を出し勢いよく羽ばたいている。
 仕事で長年付き合っている某省国営貿易商社の若手商社マンは、年30過ぎ、妻一人子一人の、中国の平均的なサラリーマン。彼と同僚の会話を聞いていると、話題は株と土地に対する関心である。中国では株熱は以前ほどはなくなった、バブルがはじけようともしている。しかし土地の話題になると熱がこもる。どこのマンションが平米いくらで売り出すとか、この前投資のつもりで手付け金を出して確保していた物件が3倍になったので権利を売ってまた次の物件探しをしなければ、とお金にかかわることばかりである。国営企業の場合、社宅を与えられ退職してもそこに住むこともできるし社宅を返さなくても構わないらしい。この点が社会主義なのであろうか。今、中国ではまだまだ建設ブームが続き、大都市のあちこちでマンション建設が盛んに進んでいる。投資用に買う人が多いのである。

 社会が急激に発展するに従い汚い「うみ」も出てくる。国の幹部を巻き込んだアモイを中心とした大密輸事件は日本でも報道されたので覚えている方もおられるかもしれない。この影響で、2年前から各地で輸出入の際、不正に申請していないか、過去にさかのぼって調査が行われている。しかしアモイ事件のあおりをもろに受け、対象があまりにも多く調査は進んでいない。不正をした会社が多いからである。もともと輸出会社には事後に戻し税なるものが還付されていたが、調査が進まないゆえ戻し税がこの2年間還付されず、運転資金に行き詰まり倒産に追い込まれた工場さえ多く出ている。
 最近、温州の公司(会社)とガスライターの契約をした。ストラップを黒色と決め「確認の返事と契約書をFAXでくれ」と担当者に依頼したが、返事が来ない。彼の公司へ電話を入れてもつかまらず、何日か後に携帯電話でやっとつかまえた。「今、結婚式の最中」と言う。「恭喜、恭喜!」とお祝いを言って切った。後日再度電話を入れ、早く契約書と確認のFAXをくれと要求してから2日後にやっと来た。契約書は問題なかったが、ストラップは「色は黒」という文字での確認ではなく、なんと写真をモノクロFAXで送ってきたのである。FAXで見ればストラップは確かに黒色である。元の色は何色か判別できないのをあらかじめ想定して送ってきたのか?温州の新婚さんには確認していない。
 投資に熱を上げるのも、熱心のあまり「?!」なのも今を生きる中国人である。


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