在台湾・日本語学科の学生雑感
浅山友貴(台湾・銘傳大学)


イラスト/浅山友貴




 台湾の大学で日本語専攻の学生に日本語を教えて一年が過ぎた。日本ブームを受けて、学生は一学年180名余り、第二外国語の学生も一クラス50人規模になる。 
 ある日、三年生の作文クラスで、なぜ日本語を選択したのか尋ねると、日本の文化的な側面、ファッションや雑貨、食文化、ゲーム、TV番組、映画、音楽等に魅力を感じて選択したと答えた人が多くいた。
 大陸の学生に同じ質問をしたら、こんな答えは出てこない。多くの場合、技術や経済など、実学的な側面に関心が向かう。日本の文化は中国から来たものばかりと冗談を言う人もいて、日本の文化面に興味を持つ人は少数だ。ある大陸の留学生がヨーロッパに旅行に行ってきたというので感想を聞くと「たいしたことない。」という答えだった。その時ふと感じたのは、彼女に感受性がないとか、そういう問題ではなく、彼女は大きな誇りと自信を祖国に持っていて、容易に他の文化に影響されない、核のような強い自我意識と信念のようなものを持っているということだ。大陸の人にはこんな核を感じさせる人が多い。 しかし台湾では、そのような強烈な自意識とあまり出会うことがなかった。驚くほど素直に日本を賞賛してくれる。「日本の自動車会社で働きたい。」「日本人と友達になりたい。」「日本に住みたい。」「剣道や日本の神話等、日本の文化をもっと勉強したい。」あるいは「寿司職人になりたい。」という人さえいた。
 「ハ日族」という「日本大好き族」というような一部の若者を指す言葉があるが、日本語を専攻する学生に「ハ日族をどう思うか?」「あなたはハ日族か?」と質問すると、複雑な表情を浮かべたり、即座に「私は違います。」と答える人もいる。中には「ハ日族は、お馬鹿で、お子ちゃまな感じ。自分がそうだと思われると頭に来る。」と答える人もいた。また「ハ日族」とは日本の流行や商品を無反省に受け入れたりする「低年齢のアイドルのおっかけ」であり「自分は台湾人として誇りを持っているから、ハ日族ではない」とのことだった。
 その一方で、その学生のいう「お馬鹿なお子ちゃまなもの」に夢中になる学生もいて、そんな学生は反「ハ日族」の学生の発言にムッとした表情だったので、こんな話をした。世の中に好きなものがあふれているのはすてきなこと。価値があるかどうかは、あなたの心が決めればいい。好きな窓から、日本にアプローチしてほしい。でも同時に、アンチ・「ハ日族」の学生達にも頑張ってほしい。自分の文化に誇りを持ち、自我の核を持った上で、日本に対峙する姿勢は魅力的だ。「ハ日族」を超える知日家になって、台湾の豊かな文化、大陸で失われたかもしれない大きな家族の関係、迷信と片付けられそうな日常の発想や習慣、海外のものを大らかに受け入れる懐の大きさ、さまざまな魅力を日本に日本語で発信してくれる人に成長してほしい。


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