台湾の学生の作文から
浅山友貴(台湾・銘傳大学)


イラスト/浅山友貴




 台湾の学生の作文で驚くことは、大変プライベートなことを詳しく書いてくれるということだ。戸惑うほどに赤裸々に書かれていて、次第に心配になってくる。これは、台湾の大学で、教師と学生の距離が近いことが関係するようだ。
 台湾の大学には担任制度がある。ホーム・ルームの時間が毎週あり、学生の個人的な面倒まで見る。一端、災害などがあって学生が巻きこまれたりしようものなら、その現場には、当然肉親がいて、そして大学の担任教師がいなければならない。学生が事故に遭えば、教師が病院に通ったり看病したりするのが当たり前だそうだ。時には入院費用を教師が立て替えてあげるので、経済的に負担が大きいということで、大学では学生のための御見舞金の予算も組まれている。
 このように距離が近い関係から、学生は担任の教師に何から何まで打ち明けており、学生は作文でも同様に打ち明けてくれたようだ。担任としては、ある程度、学生の事情を把握していないと対応できないことから、日頃から情報収集を怠らず、未然に問題を防ぐよう努力している。言わば親代わりである。自宅に遊びに来たり、日帰り旅行に行く等、場合によっては家族ぐるみの付き合いとなっている。
 笑い話となっているが、いかに教師が親代わり的存在かを示すこんなエピソードがある。ある学年で三角関係というのか、二人の男子学生が一人の女子学生を争ってけんかになり、大学で問題になってしまったそうだ。その際、学生の代わりに担任が呼び出され、学長の前で事情説明が行われた。偶然、男子学生の担任は男性の先生で、女子学生の担任は女性の先生だったため、自分が学生の代わりとなって学生の立場を主張し、学生をかばうので、次第に、先生方が当事者のようになり、その事情説明会は一幕の喜劇のようだったそうだ。
 学生の作文で、忘れられないのは、中国のある都市に行って1年も戻らない父親のことを綴ったものだ。その都市で仕事をするうちに、若い女性と出会い、家を買って、犬を3頭飼って暮らすようになり、台湾に戻らなくなったという。それで、父には早く戻って母を支えてほしい、それまで僕が一家を守っていく、と結ばれていて、初級の日本語で淡々と綴られた文面には哀しみが満ちていた。
 友人の話では、大陸に工場を移したり、投資をしている人が非常に増えていて、台湾から中国へ長く滞在する人が増えるにつれて、残念ながら多くの人に、程度の差はあれ、そのような問題が起こるのだという。「もてそうもない人がもてるの。」と彼女は言う。「どうして?」と尋ねたところ、彼女が言うには、中国大陸のごく一部の若いお嬢さんは「魅力的でない台湾の男性に近づいて親しくなる。なぜなら、あまりもてた経験のない台湾の男性は、魅力的な若いお嬢さんに親切にされて舞い上がってしまって、貢いでくれるから」だそうだ。逆に若くてハンサムな人の場合、そう簡単にはいかないと敬遠されるので人気がないらしい。 台湾の人は一般的に家族思いだ。家庭を最優先させることを当然だと思っている。その中心にいる父親がいなくなってしまうのは、大変なことだ。学生の作文を読みながら、ここまで話してくれたことに戸惑い、文面に胸がいっぱいになったが、そのことを通じて、いろいろ考えさせられた一日だった。
  イラスト/浅山友貴


目次ページへ戻る


【oisii-netホームページ】