世界の街角で

ケニアのサバンナ
アフリカにて、
サバンナを味わう

文/写真 王節子(横浜山手中華学校)


ナイロビの中心地シティスクエア
 世界地図を広げアフリカ大陸を見る。赤道がケニアの真ん中を貫いている。ビクトリア湖を挟んで向かい合うケニアとルワンダ。今夏、念願であったこの2国を訪れた。東アフリカのこの一帯は、さぞかし暑かろうと思われるが、そうではない。高地に位置するゆえ「一年中夏の軽井沢」という恵まれた気候下にある。結果、行動も快適、
夜もよく眠れる。というわけで元気であった。すぐに空腹になる。飢餓問題のある国へ行って満足な食事ができるだろうか、そういった不安を抱いている人は少なくない。が、この種の心配は無用だ。地元の食事はバリエーションこそないが、食料が不足しているわけではない。主食はウガリ。トウモロコシなどの粉を湯で練って蒸したものである。片手で寿司のシャリを握る要領で団子状にし、おかずといっしょに食べる。ニャマ・チョマという塩味の焼き肉もうまい。牛肉・山羊もよく食べる。鶏は地鶏で固いがかみ砕くうちにうまさに出会う。野菜・豆の種類も豊富でとりわけトマトを炒めたものはもう一度食べたくて夢に出てくるほどだ。

ニャマ・チョマ
 せっかくアフリカに来たのだから当地の料理を、というのが普通であるが、外国を訪れるたびに必ず実行する密やかな楽しみがあった。現地の中華料理を食することである。ルワンダは海外からの渡航者が極端に少ない。この国の中華料理は、私のあくなき好奇心とグルメ魂をくすぐっていた。いったいルワンダに中華料理店は存在するのか?料理屋はあった。しかも4軒も。その中で一番うまいという「朝陽餐館」へ繰り出すことになった。看板は漢字である。
 ここでアフリカの人々がすべてゆっくりだということを記しておきたい。「ポレポレ」、スワヒリ語でゆっくりの意。東アフリカ社会を象徴する重要な言葉だ。経済成長もポレポレ、交通機関もポレポレ、アフリカの人もポレポレ、すべてポレポレ精神なのだ。レストランでもこのポレポレに出くわす。旅も後半、アフリカ料理に飽きていたころである。ツアーの仲間たちも中華料理と聞いただけで胃袋が歓喜し、全身の細胞が中華、中華とリフレインしている。ここは中国人の店だ、期待が高まる。空腹が最高潮に達した時、ようやくスープが運ばれてきた。口にしたとたん、想像を裏切る味に言葉を失う。その後、次々に出される料理のどれもが、中華料理の概念を破壊するに値する品々であった。そういえば、さっきのぞいた厨房の中はみんなルワンダ人だったなぁ…。とうとうわれわれは口々に文句を言い出した。するとルワンダ人である、友人の夫が「虐殺のあった国がこうやって中華料理が食べられるほどにまでなったのだから。」と諭す。飽食の国に生きていた傲慢さを素直に反省したのである。われわれの失望と落胆をよそに店ははやっていた。

ナイロビのシティマーケット
 ケニヤに戻ってもう一度中華料理を食べることになった。懲りない私たちである。ナイロビのウェストランド通りにある「江蘇飯店」へ行く。店構え、内装、受付の中国小姐…合格。味は…?すべての料理に満足!海鮮や青菜の炒めもおいしくて口に合う。特に「泡米」といって火鍋に入って出された雑炊のような料理はメンバー全員の疲れた胃袋を優しく愛撫し、至福へと導いてくれた。杯が進み、笑いが弾ける。お皿の中が空になるころには、皆、満腹の喜びにまどろみ、陶酔の表情へと変わっていった。ここの料理長は中国・南京出身。聞けば日本の京都にもいて腕を磨いたという。

江蘇飯店の料理長と筆者
 ナイロビは人口200万人の大都会である。世界中の人々が訪れ、各国の料理を堪能することができる。中華料理もその例にもれず、店を訪れる人々の舌が、胃袋が、料理人を多いに刺激し、腕を上げさせる。そうして創作された一品は各国特有のうまみのエキスが凝縮されて融和し、異邦人を魅了し続ける。中華料理のグローバリゼーションに脱帽である。たかが中華されど中華、湯気の向こうに国際社会を見た思いである。異国で出会う中華料理の意外性と浮遊性が、私をまた旅人の世界へ誘うのかもしれない。

目次ページへ戻る


【oisii-netホームページ】