(No.30-2001.12)【曽徳深】


  『圓夢yuan meng』という中国語を、最近短い間に二度聞いた。一度は9月、中国南京で開催された世界華商大会での朱鎔基首相の演説で、もう一度は10月、テレビで、中国大連の金魚養殖家のドキュメンタリー番組の中である。
 『圓夢』の日本語訳は「夢を実現する」であるが、夢の実現を、筆を起こして弧を描いて元に戻る『圓』という字を使って表現するのは、いかにも視覚的である。「夢を見る」は中国語では『発夢』である。発して出発点に戻る、だから『圓夢』。
 朱鎔基首相は、世界から集まった4000人近い華僑実業家を前にして、一時間近く中国の現状と未来について、自分の見聞き体験したことに基づいて語り、聴衆の心を捉えた。その中で、湖南省の生まれ故郷に五十数年ぶりに帰ったときの話をして、子供のころ遊びまわった山が禿山になっていて悲しく、山に植樹して是非もとの緑に戻してほしいと村人に頼んできた、と言う。そして定年で自分は近いうち首相を退任するが、もし山に緑が戻らなければ、『不能圓自己的夢、就不能瞑目(自分の夢が実現できなければ、瞑目できない)』と。
 金魚養殖家の話は、夫婦で新種の金魚を創る苦心談で、4つの水泡を顔にもつ『四泡』という新種を創り、全国大会で銀賞を取る、というドキュメントである。取材の記者にこれからの希望はと聞かれて、『作最好的夢、圓最好的夢(すばらしい夢を生み出して、その夢を実現する)』とにこやかに答えるのが最後の場面であった。
 あなたの夢は?と問われたとき、どのような答えをするのだろうか。リストラに遭わないように、売上がこれ以上さがらないように、早く景気が良くなるように…夢というにはわびしいような気がする。『最好(すばらしい)夢』を生み出すには、夢の粒子で満たされた空気と、それをつかみ取る強靭な精神が必要だ。   


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