「食」は杭州にあり(その1)
曽慕蓮(元・山西師範大学)


イラスト/浅山友貴




 私がまだ子どもだったころ、両親は、中国人に広く使われている「食は広州にあり」とか「衣は杭州にあり」という言葉をよく口にしていました。私の本籍は広東ですが、かの地の料理は中国国内はもとより世界各地の中華街でも有名で、私が生まれ育った横浜中華街もそうですが、軒を並べる料理店の看板には多く「広東料理」とあります。広東料理が中国と世界の人々にどれほど受け入れられているかうかがい知れるでしょう。
 1980年代、私は仕事の関係で、山西から《この世の天国》と称えられる杭州へ来ました。ここ杭州は長い歴史と文化の淵源を有し、豊かな自然に囲まれた景色の美しい花の都です。すでに13世紀初め、有名なイタリア人旅行家のマルコ・ポーロは杭州を「世界で最も美しく華麗な都」とほめ称えています。杭州は古くから《絹織物の宝庫》と称されており、これが「衣は杭州にあり」の所以です。そして近年杭州にはもう一つ《美食天国》という桂冠が加わりました。この呼び名はおそらくまだ海外では中国人にさえそれほど知れ渡っていないと思われます。

 杭州は長江デルタの杭嘉湖平原に位置し自然環境にも恵まれているため、《絹織物の宝庫》というだけでなく《水産物と米の里》としても有名です。杭州とその周辺地区の農産物・副産物は種類が多く豊富で、このことは飲食調理に素材を提供する基盤となりましたし、杭州はまた《中国七大古都》の一つであって特に南宋が杭州に都を移した後は、ここで飲食文化が繁栄する基礎が定まりました。あのとき私が山西から杭州に来たときすぐに、ここの野菜がどれもみずみずしく新鮮で魚介類はみなぴちぴちと活きがよいことに気付き、ほんとうにうれしかったものです。中国や日本の親戚や友人たちはこれを知って、杭州で暮らす私をうらやましがります。杭州の人は「食」に大変重きを置き、庶民の家庭料理でさえ素材の選び方や調理法にとても気を配ります。たとえば水産物は活きている物以外食べませんし調理法も蒸すことが多く、素材本来の味のよさを損なわないようにします。
 北宋の有名な文学者・書家、そして杭州知府(今の市長)を務めた蘇東坡(そとうば)は、杭州の料理店についてこう言いました、「世の中で杭州ほど酒屋(料理店)の盛んな所はない。」当時、杭州の料理屋や茶館は市内全店舗の3分の2以上を占めていました。それから9百年後の今日、杭州市内の料理店だけでも5千2百軒余り、その密度は国内屈指です。
 杭州料理は中国料理八大菜系の1系統浙江料理の一つです。杭州料理は色鮮やかで香りがよく、味が豊かで見た目も美しく、さわやかで味のよいのが特色です。蘇東坡が杭州にある湖、西湖(せいこ)を称えた詩の文言「飾らない薄化粧の姿もあでやかに飾った姿もどちらも美しい」を具体的に表現しているのです。
 次回は杭州の料理店の最新事情をご紹介します。


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