世界の街角で

とてもきれいなタージマハール(アグラにて)
 摩訶不思議インド!

文・写真・イラスト/加藤暖子


ガートからガンガーに入り沐浴。水は結構冷たかった。
 インドといえば、ガンジス川。(現地語=ガンガー)そのほとりの小さな街「ベナレス」は人であふれかえっている。人は聖なるガンガーで沐浴、洗濯、歯磨き、トイレ…とありとあらゆることをする。果たして、本当に死体は流れているのか?興味本位でガートと呼ばれるガンガー沿いの船着場に行った。
 ガートにたどり着くまでには、人がやっとすれ違えるほどの狭い石畳の小道をクネクネと入っていく。この小道がかなり入り組んでいて、あっと言う間に道に迷ってしまった。グルグル同じところを回っていると突然大雨になり、ガンガーのほとりの建物の中に入って雨宿りをした。なんとその建物こそが、《死を待つ人の家》だった。文字通り、自分の死をこの家で待ち、ここで葬られるためにインド各地から人が集まるのである。この家の管理人の老人から話を聞いた。
 この家には人の死を待つ人がいた。その人たちはまだ『死』が近いとは思えない比較的元気な人が多かった。いよいよ動けなくなり、死が近くなると、隣にあるもうひとつの家に移されるそうだ。死が本当に近い人を一緒にしておくと、他の人の死期も早めてしまうと言う。建物のすぐ横に、火葬場があった。火葬場といっても何の装置があるわけでもない。露天の高台があるのみだ。ここで焼かれた死体はすぐにその下のガンガーに流される。ガンガーは女神なのだそうだ。僧侶や子供は焼かずにそのまま流してしまう。そうすることで僧侶は死後女神と合体し自らが神になれる。子供は死後もガンガーという母親に抱かれる事になる。雨宿り中、火葬場では次々に人を焼いていた。3千年絶やされたことのない火種から火をワラに移し、そのワラで死体に点火する。その点火役の男はカースト制度からも外れてしまう最下層の人で、その人としゃべることはおろか、見るだけでも自分が汚れてしまうという。「あの男は見ないほうがいい。」と言われた。彼の子供もこの仕事をするのだと思うと複雑な気持ちになった。私から3mも離れていない所で人が何人も焼かれ、黄色い煙が目にしみた。下の方では子供の死体がポイッという感じでガンガーに投げられた。目の前の光景に圧倒され、私はしばし動けなくなった。

ボートで下る。後ろの煙が例の煙。

 どれくらい経っただろう?老人が「アンダーグラウンド・テンプルを見るかい?」と突然言い出した。その言葉で我に返った。「アンダーグラウンド?何だその寺は?」と思っていると老人は、「その寺は、少しエロティックだが、問題ないかい?」と聞く。「えっ?エロティック?」意味がわからなかった。というより、今まで見ていた光景で頭の中がいっぱいで、私の聞きまちがいだと思った。ともかく観に行くことにした。その寺は、火葬場から5分とかからない距離にあった。寺そのものはインド中にあるごく一般的な寺と変わらない。靴を脱ぎ中へ入るとすぐに、柵で囲まれた地面の穴があった。老人に促され柵から身を乗り出して、穴から下をのぞきこむ。「はは〜ん、そういうことか…。」穴のちょうど真下、地面よりだいぶ深い地下に見えたものは、金属製だと思われるとても大きい風呂桶のようなオブジェだった。それはどうも女性器をかたどった物らしい。よく聞いてみると、要は子宝祈願に訪れる場所なのだが、ここからがちょっと違う。長年子宝に恵まれない夫婦などが祈願に来るらしいが、本当に子供が欲しければ、何と!夫婦でそのオブジェのある地下にこもり、何日間もそこで『子づくり』に励むらしい。これが効果テキメンで、地方からも夫婦がたくさんやってきてこの地下で励むそうだ。老人は照れることもなく大真面目に説明してくれた。なんだかすごい寺である。この神様のおかげでインドはこんなに人が多いんじゃ…と思った。
 寺から焼き場に戻ると、老人が不意に小さなビニール袋を取り出し「言い忘れていたけど、死体焼く時この粉をかけて焼くと、いい香りなんだ。」と言った。なんだかインドがどんどんわからなくなっていった。でもどういうわけかベナレスはとても居心地の良い場所だった。
 ガンガーはやはり聖なる女神様なのかもしれない。

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