鈴木香織さん・聶立東さん

 横浜中華街の山下町公園、2000年に整備された憩いの空間。公園に面して建つ華僑婦女会館には「保育園小紅」の子どもの姿が見られる。この建物は公園の改修に合わせて01年春に竣工した。コンクリート造りの建物躯体に中国的な力強い文様の石の彫り物、ベランダの赤い鉄柵、屋根の中国かわら…、「コテコテの中国風」ではない、でも〈中国の粋〉が十二分に表現された理知的な建物である、そしてモダン。
 この建物の設計をしたのは〈LKデザインオフィス〉の2人。聶立東(しょうりっとう)さんは70年生まれ31歳、鈴木香織(すずきかおり)さんは72年生まれ29歳。
 横浜中華街の“新しい風”を建物に表現する建築士集団〈LKデザインオフィス〉は、1級建築士の2人が一つのユニットを作って活動中。そう、立東さんのLと香織さんのKである。
聶立東さんは愛称リットン。父の聶毓良さんは京都大学で勉学のため来日した留学生、日本で生涯を過ごした。リットンは華僑2世になる。「でも中国人だからこういうデザイン、中華街はこのデザイン、とは考えていません。」中華街の建物、店舗を設計するに当たり、香港へ飛び北京・上海を歩き江南の風に当たった上で考えることは横浜の中華街が中国の模倣であっていいのか、ということ。現代の横浜中華街らしい空間をデザインしたい、と熱く語る。
 2人は関東学院大学建築学科環境デザイン専攻の先輩後輩の間柄。「環境デザイン」とは、建築設計の中では意匠系に分類され、人の生活にかかわる全て、お茶碗から地球規模までその環境を考えようというもの。扱うその範囲はとても広く、全体をとらえることが必要となる。聶さんが影響を受けたのは大学4年生のときの講師、ランドスケープデザイナーのナンシー・フィンレイ博士。卒業後も博士の手伝いを続ける一方、会社勤めを経て独立する。香織さんは小さい時から絵を描くことが好きで工業高校建築科、大学建築学科へ進学した。そして6年前に香織さんの実家がアパートを建てるにあたり、聶さんに相談をしたのがきっかけでいっしょに仕事をするようになった、とか。

2人で活動を始めたころ
 〈LKデザインオフィス〉の扱う仕事は初期は住宅設計が主。積極的にコンペに応募し「オゾンリビングデザイン賞」「播磨科学公園都市近未来戸建住宅デザインコンペティション」等、あるいは商品化住宅のプロポーザルコンペに入選している。そして今、店舗それも中華街の店舗設計が大きなウエートを占める。《悟空立川店》《菜香立川店》《菜香新館・清芳春》と続き、01年に《悟空茶荘》《萬珍楼点心舗・朱雀廳》等。
 「婦女会館の建物にしても、建物とはイコール背景です、使う人が主役。家具が入りそこで人が楽しく動ける空間を心がけています。」
 「中華街というと金ピカッ、という印象あるでしょうが、中国本土の宮廷建築などきらびやかな建物の細かい装飾の部分でまねしても、やはり『中国風』にしかならないわけです。アイデンティティはもちろん中国だとしても、中華街だからこうでなくてはならない、ではなく普遍的なものを作りたいですね。私たちが設計したものはどこか懐かしい、と言われるんですが、これが『普遍的』ということかな、とも思うんです。」と聶さん。
 「中国茶館《悟空茶荘》は、中華街にこういう空間があったらいいなと思う空間、中華街らしい空間を作りたい、と思って設計しました。基本は中国・江南地方の伝統的な町屋です。」「また来たい、という声が聞かれれば成功。」2人がほどよいタイミングで言葉を引き継ぐ。
 「中華街の仕事も一段落したから、基本に戻ってみようかなと思う。」と語る聶さんに、香織さんがうなずいて「勉強しないといけない時期、視野を広げたいですね。」
(インタビュー 新倉洋子)




目次ページへ戻る


【PERINETホームページ】 【PERINET企画サイト】

webmaster
Copyright(C)2002 PERI