世界の街角で
負けそー、インド!
カルカッタにて、寺の前。
文・写真・イラスト/加藤暖子


カルカッタにて、筆者
 デリーで大量の人と牛の波をかき分けながらたどり着いた1軒の安宿。部屋は2畳ほどで、簡素なベッドがあり、天井には頼りない扇風機…それだけの部屋である。宿探しに疲れたこともあり、とりあえず昼寝をしてみる。扇風機は頼りない見た目とは裏腹に、とんでもない爆音で回り、今にも天井から落ちてきそうである。ただしちっとも涼しくはない。じっとり汗をかき昼寝を終えると爽快な気持ちになった。日本円で3百円にも満たない部屋でも快適なもんである。が…油断は大敵、夜になり部屋の電気をつけた瞬間、とんでもないことになった。『虫』である。窓にガラスがなかったのである。明かりをつけてものの5分で私の2畳の部屋はまるで昆虫館のようになった。あわてて明かりを消すと、これまたアッと言う間に虫も外へ飛んでいく。明かりをつけたり消したりしてみたが結局は暗がりの中、出て行きそびれた(?)ヤモリたちとともに寝たのである。

ヤモリ、旅のお友だち
 インド人はもちろん毎日インド料理を食べている。私も1か月ほどのインド滞在期間中、毎食インド料理を食べ続けた。しょっちゅう停電するインドではせっかくの扇風機もあまり意味はなく、毎朝汗だくで目覚めることが多かった。ある日を境に、朝目覚めるころ、部屋がカレー(スパイス)臭いことに気づいた。近くでだれかが食事しているか、または仕度しているのだとばっかり思っていた。ところがある日、それが自分から出ている汗のニオイだと気づいた時はかなりショックだった。毎日一生けんめい摂り続けたスパイスがこんな形で外に出てくるとは!スパイスの力は実に偉大だ。
 実はそのほかに、デリーに来てからずっと気になっているものがあった。インド人の飲む水である。小さな食堂では、店の奥のほうにドラム缶のような水入れがあり、食事中インド人がそこからステンレスカップに水を取り、すごくおいしそうに飲んでいるのを目撃していた。なかには水入れの中に大きな氷を浮かべている所もあった。冷えたミネラルウォーターも有料で用意している店がほとんどだったが、ペットボトルの水よりも、彼らがとにかくおいしそうに飲むその水が気になって仕方なかった。
 そして、Xデーはやってきた!

インドを東西に走る長距離列車、
結構清潔。
 デリーを離れ、ガンジス川のほとりの田舎町で、小さな食堂に入った。外国人は私一人である。いつもどおりインドの定食『ターリー』を注文。そしてそっと店の奥に目をやると、あるある、あの水が!店の人に「水ちょうだい。」と言うと、案の定ペットボトルのミネラルウォーターを持ってきた。「いや、これじゃなくて、あの水。」と例の水を指差す。と、その瞬間!店内の人すべての視線が一斉に私に向けられた。その視線はじっと私一点を見つめたまま動かない。店員が例の水をステンレスカップになみなみ注いで持ってきた。
 みんなの視線に力がこもる。水を見てすぐに後悔した。デリーで見たソレとはまったく違う。カップの底が見えない。まさにガンジス川そのものの色だった。場はあとに引けない雰囲気に包まれた。持ってきた店員もべったりと私の横に立って見ている。意を決し、ガブガブッと一気に飲み干した。ある意味、栄養たっぷりの水だろうが、それはそれはすごい味であった。飲み干すと皆の視線は何もなかったかのように私から離された。後悔してももう遅い、私の腹はガンジスの水でジャブジャブした。しかしよく考えてみると、まずいこと以外には何の問題もなかった。それからの滞在中、私はかなりの量のローカルウォーターを飲んだのは言うまでもない。
 人間の体なんて結構頑丈にできているもんである。
 でも、よい子のみなさんはくれぐれもマネしないように。

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