(No.32-2002.4)【曽徳深】


 中国語“誠信”は“誠実守信”から出た言葉で、わかりやすく言いかえるなら、「うそをつかず、約束を守る」である。この言葉、今中国では最もホットな言葉として注目されている。中国の新聞報道によると、権威ある辞書『辞海』の数年前の版にはこの単語は見当たらなかったが、去る3月開催された政治協商会議と中国人民代表大会では、代表や委員達の一番使用頻度の高い単語となった、とい う。海賊版CD、偽ブランド、偽札、有害食品、偽薬、偽医療器具、偽証明書、偽領収書、二重帳簿、脱税、借金踏み倒し、金融詐欺、違法金融取引、違法出資金募集、株価操作、インサイダー取引、偽学位論文、偽博士、偽証、密貿易、偽統計などの文字を政治協商会議の発言資料のあちこちに見いだした時は、針小棒大、白髪三千丈の類の表現ではないかと、率直な所、にわかには信じられなかった。
 中国は今や世界の工場としてはやし立てられ、ユニクロの衣料品はメイドインチャイナ、中国の家電製品が良質安価で世界の市場で着々販路を広げ、世界不況を尻目に7%以上の成長を達成している、などのニュースとの落差は一体なんなのだろうか?中国の経済成長は事実である、ニセモノ・ウソの氾濫も紛れもない事実である。市場への参加者が多元的で、各々が独立していて対等であり、かつ各々が最大利益を追求する市場に、利己主義が悪さをするのは避けられない。先進市場経済の国家でさえも、エンロンや雪印事件、狂牛病が発生する。法律も制度も不備な中国では初期市場経済の欠陥が発症する。経済活動に始まるニセモノ・ウソは、社会、文化、政治など多方面に転移する癌であり、国家民族を破滅にいたらしめる。「誠信危機」の破壊性と破滅性に警鐘を鳴らしたのが今期の人民代表大会であり、そしてまた、「誠信社会を建設するために、政府が率先垂範せよ」との発言が出てくるのも今日の中国なのである。


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