杭州の茶館
曽慕蓮(元・山西師範大学)


イラスト/浅山友貴

訳/豆彩編集部




 茶館は中国で数百年の歴史があり、にぎやかな大都市から辺鄙な片田舎までどこにでもあります。昔の茶館の様子は北京人民芸術劇院の演目―老舎の『茶館』でその概要がわかるでしょう。そして今の茶館の様子は?一度杭州に来ていただければその全容を知ることができます。
 杭州は有名な歴史的文化的景勝地で、一年中観光客が絶えません。また杭州人は南宋の遺風を残し、ゆったりと瀟洒な雰囲気を尊びます。これらが豊かな集客の基盤となって、杭州の茶館は数が多く国内一といわれ、そして規模も全国一、営業スペースが数千平方メートルに達する店も多いのです。杭州では茶館を建てる場所を選ぶときから周りの景観を重視しますし、内装も古典的にあるいはモダンにと創意を凝らします。たとえば西湖に臨んで建てられた湖畔居茶館では、遠くに山並み近くに湖水という西湖のすばらしい景色が窓から一望され、陶然とさせられます。杭州の茶館は「一に数が多い、二に規模が大きく、三に質がよい」のです。
 今の茶館を昔と比べてみると、増えた機能と消えていった機能が一つずつあることに気づきます。消えたのは情報の場という機能、増えたのは腹を満たす機能です。どういうことでしょうか?中国で100年前、テレビやラジオはもちろん新聞もありませんでした。人々が情報を仕入れるのに茶館こそが、当時もっとも速くもっとも広範囲にわたるもっとも便利な場でした。皇帝や役人さえお忍びで来ましたし、また部下を茶館に遣わして庶民の実情や世論を探ったのです。このやり方は科学技術の進歩に伴い自然になくなりました。
 腹を満たす機能ですが、これは茶館のオーナーのアイデアです。バイキング料理は珍しいものではありませんが、茶のバイキング?杭州のいくつかの茶館が客寄せで、お茶1杯の値段で点心の無料バイキングサービスを始めたのです。伝統的なお茶請けのスイカやカボチャの種やピーナッツ・あめ・砂糖漬け等のほか、まんじゅう・ギョーザ・ワンタン・シュウマイ・春巻・焼きそば・チャーハンなどの主食、さらに串焼きや鶏のスナギモやレバーのしょう油煮などの気の利いた食べ物、もちろん新鮮な果物もあります。ですから休日に親戚友人を誘って茶館に集まる人もいます。朝9時10時から夕方5時6時まで、麻雀やトランプ持参で食べて飲んで遊んで昼食夕食も済むとは、なんと安上がりでくつろぐことでしょう。
 杭州の茶館にはもう一つ特徴があります、有名な茶館のオーナーがみな女性なのです。青藤茶館・和茶館・紫芸閣茶館等みなそうです。そこになにか理由があるとするなら、女性の優雅な姿ときめ細かな情緒は茶に通じるものがあるからでしょうか。『紅楼夢』で賈宝玉がこう言っています、「(男性は泥でできているが)女性は水でできている。」ですから「茶」と「水」は女性といっそう近しいのでしょう。


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