崔岩光さん

 一昨年秋のこと、横浜中華街に近い関内ホールにゲストのすばらしいソプラノが響き、中華街の華僑女性がつくる〈黄河女声合唱団〉演奏会の聴衆を魅了した。
 ソプラノの中でも一番高いコロラトゥーラソプラノ。気品と温かみのあるその声の主は崔岩光(サイ・イエングアン)さん。中国大連出身のオペラ歌手。一度耳にしたら忘れられない、そう「神から与えられた歌声」と称えられる声の持ち主である。
 紹介する人もなく突然ゲスト出演のお願いをして以来9年お付き合いのある〈黄河〉の李香玳さんは「崔さんは一流のオペラ歌手にもかかわらず快く引き受けてくれました。私たち華僑が中国の歌を歌うときの気持ちをよく理解してくれます。」崔さんは「華僑の女性たちは仕事をもちながら、中国を思い、音楽を愛し歌う。尊敬します。」と応援する。
 千葉県市川市の自宅に崔さんを訪ねた。白とベージュが基調色の瀟洒な館。「家具はイタリアのデザインのものが好き。」フランスや大連・日本の物がみごとに調和した室内、そしてあちこちに置かれた花、花、住まいは人を語る…。
 崔さんのご両親は教育関係の仕事に就き、音楽家ではなかった。「私ほんとうはお医者さんになりたかったの。」歌の記憶は、幼稚園で土曜日、迎えにきた親たちの前で歌い誉められたことから始まると笑う。15歳で北京空軍歌舞団にオーデションを受けて入団、「軍から指定された舞台で中国の歌を歌っていた。」
 転機は1枚のレコード。「78年ころ、メトロポリタンで録音した《椿姫》のアリアを聞いてすごく感動しました。オペラを初めて聞いて、『私はこれを歌いたい、クラシックを勉強したい』と強く思った。」と語る。オペラの勉強をして84年中国音楽院歌劇科終了、中国中央歌劇院ソリストとなる。「中国でのオペラデビューは90年の《椿姫》、遅かったね。」
 崔さんは89年、東京・オーチャードホールで、モーツァルト《魔笛》の「夜の女王」を演じて高い評価を得、日本にデビューした。同年のパリ・オペラ座との出演契約は、天安門事件の影響で実現しなかった。そして92年、平山郁夫氏に招かれて東京芸大の客員研究員となり来日する。「日本へ来たころ

指揮者小澤征爾氏と
は専属する劇場もないし、厳しかった。」横からマネージメントを担当する木村氏が「厳しいなかで、日本を基盤に活動するエネルギーの元を横浜の華僑のみなさんにいただいたんですよ。」
 それからの活躍はみなさんご存じのとおり。キングレコードからCD「愛する小鳥よ」「茉莉花」「夜の女王を歌う」を続けてリリースし、日本を代表する交響楽団と共演する。97年には小沢征爾指揮新日本フィルの《魔笛》に出演して好評を得る。のちイタリア・カナダ・ブルガリアで公演。昨年1月にはアメリカ・サンディエゴでオペラ《魔笛》に出演し絶賛される。そして日本・中国・アメリカでの舞台は数しれず。日本滞在も10年を迎えた。
 これからのご予定は? 今年は7月チリで《魔笛》、9月7日に横浜みなとみらいホールでプッチーニ《トゥーランドット》の全曲、11月に北京で團伊玖磨・作のオペラ《ちゃんちき》に出演する。そして03年フィンランド公演と〈黄河15周年演奏会〉への出演が決まっている。今ニューヨークでの公演を検討中。「いつか北京で《トゥーランドット》を上演したいね。」
 「趣味?…私は歌以外なにもない、歌だけ。世の中のこと知らないし、歌のことしか考えていない。(それほど)テクニックを勉強するのは非常に難しいんですよ。」
 魅せられて崔さんの公演を「追っかけ」する人も多い。「日本に来てよかったことはファンと顔を合わせて話し、交流ができること。」ファンを大切にする崔岩光さん。
 「来年はデビュー30周年なんです。」その言葉に自信と、力強い「挑戦する心」がうかがえた。
(インタビュー 新倉洋子)

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