熟(ショウ)/発酵する




 台湾のお茶屋さんで最初に覚えた単語は「バンショウ(banshou)」だった。初めてその音を聞いたときは意味がわからなかったけれど、店員さんの淹れてくれた烏龍茶の色と香りがその意味を教えてくれた。「ショウ」したお茶は紅茶のように濃く、「バンショウ」は黄金色、「ショウ」していなければ緑茶。つまり「ショウ」とは「発酵する」ということのようだった。
 1年余り、辞書を調べることなく、お茶屋さんとの会話の中で、その単語を覚えて使っていた。帰国してから辞書を調べてみて初めて、「ショウ」は「熟(shou)」のことらしいとわかった。「煮える」とか「熟れる」「慣れる」等とあって、「発酵する」と考えてもよさそうだ。お茶屋さんに行かなければ、こんな使い方は覚えなかったと思う。バンショウは「半発酵」の意味になる。
 『熟語』の「熟」は「シュウ」なので、最初「ショウ」と聞いても意味がわからなかった。方言かと思ったが、辞書には「ショウ」の発音もあって、ようやく謎が解けた。
 こんな覚え方は遠回りだけれど、勇気を出してお茶の缶に囲まれながら覚えた「熟」という言葉は、いくつかのお茶の香りとともに懐かしく心に蘇る。「ショウ」の音、烏龍茶の柔らかい色と香り、辞書の「熟」という漢字、いくつかの断片が一つに合わさって謎が解けた瞬間はちょっと幸福だった。
《浅山友貴》



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