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天津は、かつて日本やフランスの租界があった大都市。そんなことが関係するのか、フランス風のものを天津で見ることがある。たとえばクロワッサン。12年ほど前、北京では全く見なかったが天津では売られており、おいしさも群を抜いていた。 こんなこともあった。春まだ浅い寒いころ、自由市場の外側にできた魚の露店に古い雑巾のようなものが並んでいて、こんなものを買う人がいるのかなあと思って通り過ぎたところ、いっしょに買い物に来ていたおば様が、その雑巾を物色し始めるではないか、冷凍の魚だった!おば様のお料理をごちそうになる予定だったので、うわっと思ったが、でき上がったお料理を見ると、雑巾みたいな魚は上等の舌平目だった。料理法は「炸(zha)」つまり揚げてしまう。高温で揚げることで、雑巾のように見えた魚は、百倍ぐらいおいしくなったと思う。 人が言っていた。「信用できるお店でしか炸魚(揚げた魚)は食べない。」刺身ならわかるけれど、揚げた魚をなぜ?と思ったが、舌平目の変貌を見て納得した。揚げることで見栄えもよくなり、余分な水分が飛び、味が濃縮されてギュっと閉じ込められ、劇的に変化してしまう。おば様のように腕のいい人なら、「炸」することで錬金術のように不思議な化学変化を起こすことができる。「炸」とはつまりそういうことなのだった。 |
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〈浅山友貴〉 |
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