言葉の風景
譚 佐強
庶民の足、軽ワンボックスバン型タクシー

 中国でタクシーといえば、一昔前は黒塗りの大型高級セダンばかりで、庶民には縁のない存在だったが、最近では小型タクシーが急増し、すっかり庶民の足として定着したようだ。タクシーの大衆化は改革・開放により中国庶民に経済的ゆとりができたことも一因であろうが、なんといっても格安料金で利用できる面的miandiの登場が最大の要因に違いない。
 面的とは面包車的士(ワンボックスバン型タクシー)の略である。面包とはパンのことで、中国人はワンボックスバンを食パン形の車とイメージしているらしい。的士はタクシーの音訳である。面的に使われる車は、日本で軽ワンボックスバンと呼ばれる車種で、天津の日系合弁会社が生産する天津大発が最初のお手本となったが、現在では模倣車がたくさん出回っている。いずれも排気量が800cc以上あり、日本の軽自動車の枠(660cc以下)をはみ出している。面的に使われているこれらの車種を中国では微型汽車汽車は自動車のこと、1000cc以下)と呼んでいる。一方、中国にも軽型汽車と称する車種があり、その規格は微型汽車の一つ上のランクに属する。つまり、中国の軽型汽車を「軽自動車」と訳すのは明らかな間違いであり、これは「小型自動車」なのだ。
 面的はその後、排ガス規制などの理由で北京市内では走行禁止となった。昨年、北京でタクシーに乗った時、「北京市内では面的が禁止になったそうですね」と聞くと、運転手さんは、「そうです」と言った後、「但,最近還出現了白色的黒車(ところがここに来て、今度は白い黒車が登場しましたよ)」と続けたので、私は一瞬その意味が理解しかねた。黒車とはにせ物のタクシー、つまり「白タク」のことである。面的にはほとんど黄色の塗装が使われていたので、規制をかいくぐるため、白い塗装で自家用車を装ってタクシー家業を行うやからが出現したとのことである。この説明で私はふと「白タク」が中国語では黒車になることに気づいたわけだが、それにしても白色的黒車(白い黒車)は傑作だな、と思わず一人でニヤリとしてしまった。      
(Tan Zuoqiang・翻訳業)

【戻る】


【PERINETホームページ】【PERINET企画サイト】


webmaster
Copyright(C)2002 PERI