世界の街角で

ごめんね、文山包種。

文・写真/水越知子(【悟空茶荘】)
 【悟空】では毎年、初夏に台湾で行われる「中国茶づくり研修」にスタッフが参加し、知識と経験を販売に役立てている。今年作るお茶は、緑茶に最も近い青茶(=烏龍茶)の「文山包種」と、最も紅茶に近い青茶である「東方美人」。過去の参加スタッフは「連日3時間睡眠でキツイよぉ〜」と言う。スケジュールでは深夜作業は1日のはずなのだが…。

 疑問を持ちつつも6月初夏の台北に。さっそく乾物が並ぶ迪化街(てきかがい)を歩き、永康街の庶民的な食堂で食べに食べて腹いっぱい。にもかかわらず絶対に食べたい台湾スィーツがある。感激しまくるという【氷館】のかき氷だ。しかも今が旬の「マンゴーかき氷」。今夜を逃すとチャンスはない。

 【氷館】は、午後10時半だというのに行列が。待望のそれは、カレー皿なみの器にかき氷、その上には熟した濃厚なマンゴーがたっぷり。練乳とミルクを混ぜたやさしい甘みのソースとぴったり合っている。氷は時間がたってもガジガジにならないときた。ホントに感激!

 翌朝、台北から車で1時間半ほどのお茶の産地、坪林(ピンリン)地区の茶農家へ。到着早々、「文山包種」の茶摘みに出かけた。農家のおばさんたちは手早く摘んでいくが、こっちは「これオッケーよね?」と確認しながらが精いっぱい。


茶摘み娘(筆者)

 ともかく(おばさんたちが)摘んだ茶葉をガーレイという直径1メートルほどの竹ザルに敷き、萎凋と攪拌(揺青)を2時間おきぐらいに繰り返し、ゆっくり発酵させていくのだが、攪拌の技が難しい。職人さんがガーレイを回し揺すると、広がっていた茶葉がふわっと中央に丸く集まったり、サッと広がったりする。やってみろと言うのでやってみた。できない。手首の返しをこうするんだと言われてもできない。手のひらが痛い。

 攪拌と萎凋を繰り返すたびに、「文山包種」らしい涼やかな香りが出てくる。いいぞ、おいしいお茶ができるぞ!4回目の攪拌は、日本からの珍客を見に集まっていた?近所のおじさんやおばさんたちと大いに揺すった。私たちの攪拌練習、プロの攪拌自慢で大騒ぎだ。その後、ドラム式の釜で殺青し(発酵を止める)、揉捻機でよじるように揉み、最後に軽く焙煎して完成!
 できたてを見てみる。あれれ、色が黄色っぽい、形もヨレヨレ。あんなにがんばって攪拌したのに…。味は鉄分を含んだようにえぐく、酸味も感じる。飲めたもんじゃない。なんで?…聞けば、なんとなんと、なんてこった!大いに揺すったのが致命傷で「茶葉は完成させるまで、赤ちゃんを扱うようにやさしくしなければならない、4回目の攪拌で死んだ」と。つまり虐待したわけだ。失敗することがわかっていながら作ったのは、失敗の味を知ることも大切だからそうしたと言う。グッときた深夜2時。

 翌日は気を取り直し、心も入れ換えて「東方美人」づくり。「東方美人」は、ウンカ(小さな昆虫)の力も借りて作られる。ウンカに芽を噛ませてできた小さな傷が発酵に大きく作用する。噛んだ茶葉は縁が少し赤い色をしている。だが、素人には噛んだかどうかはっきりわからないものもあって、茶摘みは無理、カタチだけ。


萎凋ー太陽に当てて5分

茶菜を料理−ブタ肉炒め
 「東方美人」の攪拌は、回し揺するのではなく手でやさしく混ぜる。4回目になると甘い香りが漂い、白毫がクルンと曲がり、シラスのように際立ち、すこぶる良い状態になってきた。

午後11時頃に全てが終る予定だったが発酵が進まず、結局は3時間押し。あくまで茶葉が主役で人はお守りである。上々の出来でホッとしたのは深夜2時。

 翌朝試飲をすると抜群においしく仕上がっていた。職人さんが経験と感を駆使し作業を進め、私たちはお手伝いさせてもらっただけなのに、やたらといとおしく、抱きしめたい気持ちだ。

 大失敗と大成功を体験して、お茶の繊細で奥深いおいしさの秘密は、茶葉づくりから始まっていたことをつくづく思う。それは、お客様に茶葉それぞれのおいしい淹れ方を伝えなければと決心させられた旅となった。また行きたいっ!
 

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