| 美中生韻 | |
| 日本語でイノシシは猪と書きますが、中国語で「猪」はブタを意味し、イノシシは「野猪」と書き区別します。イノシシはブタの祖先種。古代中国において最古の食用獣は、家畜化された野猪でした。文献を探すと、西周王朝の行政組織を記述したとされる『周礼(しゅらい)』に、王の食材として六畜(ウマ・ウシ・ヒツジ・ブタ・イヌ・ニワトリ)を管理する料理人に関する記録がありますので、このころにはブタ肉が食されていたと考えられます。 さて、古代中国の野猪ですが、横浜ユーラシア文化館に収蔵されているめずらしい漢代画像石の拓本の中に、その雄姿が記録されています(写真参照)。これは約2千年前、後漢時代に石に刻まれた浮彫画像から採った拓本です。古代中国では、死者の霊魂はそのまま地下世界で暮らし続けると考えられていたため、地下墓室は地上の居住空間のように作られ、壁面や天井を構成する画像石には、地下世界の静寂を破るかのように、動物や仙人、神々の姿が生き生きと表されていました。当時の風俗習慣(馬車行列、狩猟、舞楽、宴、厨房)を鮮やかに映し出す画像も残っていますが、これらも霊魂を祭るさまざまな行事に関連することが推測されています。 写真の狩猟図では、巨大な野猪が槍のような棒状の武器で後ろ脚を突かれています。弓矢をかまえる人物もいます。野猪のかたわらには、小鹿のような小動物が逃げ惑っています。古代中国の狩猟に関する文献を参照しながら本図を読み解くと、意外なことが分かります。前漢末までにまとめられた中国の古典『春秋左氏伝』には、春夏秋冬それぞれの季節、農閑期に狩猟を通して武事の演習・訓練をし、狩猟で得た獲物は先祖に捧げることが昔からの決まりであると書かれています。同書から「国の大事は祀(まつり)と戎(いくさ)―祭祀と戦争」であったこともわかります。つまり、漢代以前から、狩猟は単に貴族の遊びではなく、軍事的な訓練の場、そして先祖の霊に捧げるいけにえの動物を用意する活動として、重要な意味を持っていたのです。 石に刻まれ伝え残された漢代画像石によって、古代中国の思想・生活習慣などが、2千年後の今、鮮やかによみがえります。
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