世界の街角で

ベネズエラへの邦楽の旅
文・写真/竹内洋市(国際インフラ調査会)
  セサール・レンヒーホ劇場で邦楽の演奏

 産油国として有名なベネズエラは、巨人とヤクルトで活躍したペタジーニの生まれた国で、南米大陸北端の位置にあります。99年12月には水害で約3万人が亡くなった国です。00年4月当時、飛行時間は最も便利なアメリカ・ダラス経由で17時間15分、成田を午後3時に出れば、時差13時間で、当日の午後9時にカラカスの国際空港に着きます。

  私とベネズエラとのかかわりは、JICAの水資源専門家として79年から82年まで派遣され、家族とともに住んでいたところであり、今でも多くの友人がおります。

エンジェルの滝
  「邦楽の旅」の発端は、24年から続いている名古屋の都名会の忘年会が98年12月にあり、この席で外国旅行を一度もしたことがない人から、尺八を吹きながら外国旅行をしたいと私に相談がありました。そのことを、都名会の会長の加藤名山先生と在日ベネズエラ大使館の文化アタッシェを務め、当時ベネズエラに帰国していた友人のロベルトさんに相談しました。その結果、ベネズエラの首都カラカスと、カラカスから西680キロメートルにあるロベルトさんの故郷の大学都市メリダで、00年4月に邦楽の公演をすることになりました。

  「邦楽の旅」の参加者は尺八8名、琴1名、三味線1名、尺八演奏者の奥さん4名で、この旅行は邦楽の演奏と、首都カラカスとメリダ市の観光のほかにエンジェルの滝を小型飛行機から眺望し、オリノコ川で船に乗り、世界最高のケーブルカーに乗ることにしました。参加者が最も感動したのはエンジェルの滝の眺望でした。

ボリバール山を背景に、高島さん(左)と筆者(右)
  ベネズエラの景勝地の中で最も日本で有名なのは、頻繁にテレビで放映される南部のブラジルとの国境近くにあるエンジェルの滝です。その滝は落差970メートルありますが、33年に発見されるまでは、世界中だれもその存在を知りませんでした。ベネズエラ最高峰の標高5007メートルのボリバール山、その山を眺望するため世界最高4760メートルまで昇るケーブルカーがあります。日本からも野鳥の観察に多くの人が訪れる野鳥の宝庫は川の長さ2100キロメートルのオリノコ川です。油田が林立する琵琶湖の20倍の大きさのマラカイボ湖、その湖に近接しカリブ海に面したコロの海岸砂丘など、ベネズエラにはその他にも多くの名勝地があります。ただ、交通の便が悪く、治安が悪いため、多くの日本人観光客が訪れる国にはなっておりません。私たちの旅の最大のトラブルは、一人がカラカスの地下鉄の構内でスリに全財産10万円を掏られたことでした。

メリダでのプログラム
  演奏は4月9日にカラカスの国立美術館のホールで、12日にはメリダのロス・アンデス大学のセサール・レンヒーホ劇場で行いました。在ベネズエラ日本大使館、ロベルトさんとその家族、私がベネズエラ政府で働いていた当時に知り合った友人、それぞれの紹介で多くの人に集まっていただきました。演奏曲目は〈六段〉〈千鳥〉〈元禄花見踊り〉〈祝の曲〉〈ソーラン節〉〈さくら〉〈岩清水〉と、ベネズエラの民謡〈サバナ〉でした。「サバナ」は「平原」という意味で、日本の〈さくら〉のような、ベネズエラの人ならだれでも知っている有名な曲です。この曲をロベルトさんの友人で東京芸大の博士課程に当時留学中のベネズエラ人のロドリゴさんに、私たちの演奏旅行のために特別に尺八と琴と三味線のために編曲していただきました。プログラムを事前に作成して演奏会場で配布していただきました。私たちが紋付の着物で正装して演奏を始めると、うろうろしていた子どもたちも動かなくなるほど、見たことも聞いたこともない尺八・琴と三味線の音色に聞き入ってくれました。聴衆が最も感動したのは、加藤先生と高島さんが演奏した〈岩清水〉でした。演奏会は好評で、旅費の一部を負担するので再度演奏に来てほしいと要請があったほどでした。

  私は学生時代に尺八を習い始めて、間もなく50年になります。演奏は一向にうまくなりませんが、笛の音を聞く楽しみと向上しようと努力する楽しみを、尺八の上手からいただいていると感じています。
 

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