日本古来の美意識では、春は満開の桜、というよりは春風に舞う桜吹雪にはかなさを感じ、いとおしむことでしょうか。花の好みは異なるもので、中国の人びとに最も愛されてきたのは、優美に咲き誇る大輪の花、牡丹です。牡丹は中国原産の花です。

  中国で牡丹は「あまねく花を看るも、此の花に勝るものなし」(『全唐詩』巻26)と絶賛され、別称は「花王」「花神」「富貴花」と列挙されるほど、まさに花の中の花といえましょう。多くの詩人が詩に詠んでいるので、牡丹愛玩の歴史は唐の時代にまで遡ることが可能で、8世紀半ばすぎから都長安で大流行したことがわかります。詩人李白(701年〜762年)は玄宗皇帝と楊貴妃のロマンスを牡丹に喩え、白居易(白楽天772年〜846年)も「買花」(『白氏長慶集』巻2)や「牡丹芳」(『白氏長慶集』巻4)で長安の市民が牡丹の時期を待ちわび、都をあげて芳しい牡丹花の話題に熱中したことを書き残しています。当時長安では、牡丹の見ごろとされた3月の15日前後に花見が盛んにおこなわれ、宮廷では「花くらべ」(闘花)が催されたため、「皆千金を以て名花をかい、庭苑の中に植え、以て春時の闘に備えた」(『開元天宝遺事』巻下)といいます。牡丹の名品も花くらべの席で競われたにちがいありません。花弁の色については、紅や紫が好まれ、白牡丹は重んじられなかったことが白居易の詩に残されています(『白氏長慶集』巻15)。

  「牡丹濃艶人心を乱し、一国狂うが如く金を惜しまず」(『全唐詩』巻19)と歌われたほど、都を離れても人びとは牡丹の名花を探し求めることに情熱と大金を惜しみませんでした。こうした風潮は五代・宋にも続き、花といえば牡丹を意味するほど愛されました。

  その優美で気品に満ちた姿は中国はじめ韓国や日本でも工芸品のモティーフとして愛でられてきました。とりわけ、中国の陶磁器では優品を彩るさまざまなスタイルの牡丹文様が見られます。

横浜ユーラシア文化館 http://www.eurasia.city.yokohama.jp/


粉彩富貴花蝶紋天球瓶
清・雍正年代
『陶瓷研究・鑑賞叢書1 中国古瓷匯考』
  芸術図書公司1992年
五彩纏枝牡丹紋鳳尾尊
清・康煕年代
『故宮博物院蔵文物珍品全集38 五彩・闘彩』
  商務印書館1999年
牡丹紋陶枕(ぼたんもんとうちん)
陶器(磁州窯)金代(12〜13世紀)
白い化粧掛けの上に、酸化鉄を用いた顔料でチョコレート色の牡丹の花や葉が伸びやかに描かれている。白泥で表面を白くする化粧掛けは、宋代から金、元代にかけて磁州窯でおこなわれた。
横浜ユーラシア文化館所蔵

西アジアをルーツとする植物文様
異なる地域と時代のイメージを探る
『シルクロード 華麗なる植物文様の世界』
古代オリエント博物館・編
山川出版社2006年

 白牡丹 ハクボタン

福建省産の白茶の一つ。1芽2葉でつくられ、緑の葉に白い芽が混ざる様が白牡丹にたとえられる。広東、特に香港の人にその味が好まれる。茶湯は薄い黄緑色で、飲んでスッキリ感がある。

【悟空茶莊】 横浜中華街中山路 045-681-7776


 牡丹 ボタン
ボタン科ボタン属の落葉小低木。中国原産。原種の花色は紫紅色(紫がかった深紅色)。
唐代にボタンの栽培と鑑賞が盛んになり、清代以降1929年まで中国の「国花」。現在、牡丹・蓮・菊・梅・蘭から新しい国花を制定作業中と伝えられる。
もともと薬用に栽培され、漢方で「牡丹皮」は、ボタンの根皮で、抗菌・消炎・鎮痛鎮静の作用があるとされる。



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