装修(リフォーム)

浅山友貴
(大正大学講師・イラストレーター)





 この春の北京は「北京の風」ならぬ「北京の大風」が吹き荒れた。黄砂が混じり、目も開けられない。この砂はモンゴルの砂漠から運ばれてくるらしいが、工事中のホコリのせいだと冗談を言う人もいる。確かに最近の建設ラッシュはすさまじく、新聞には連日「××花園(マンション)」の広告が並ぶ。
 住居は、以前は国から支給されたが、現在は各自で買うことができる。国営企業に勤めていれば、国と勤務先から3分の1ずつ補助が出るので、3分の1の負担でいいという。勤務先がアパートを建て、低価格で社員に売ってくれることもあり、気に入ったものを選んで、頭金を払ってローンで買う人もいる。
 先日、マンションを買ったという丹丹さんの部屋を訪ねた。丹丹さんは、バンド活動をしており、作曲でも認められている前途有望な若きアーティスト。北京郊外にあるマンションに足を踏み入れると、美しい北欧製の床が一面に敷かれていた。これは丹丹さんが選んだもの。床に限らず、マンションを買う時は内装のない状態で購入し、各自、床や壁など日曜大工で手作りするか、業者を探して好きなものを頼むのだそうだ。丹丹さんの家の内装は専門の業者が手がけたもので、キッチン、ベッドルーム、作曲用コンピュータ機材を置いた仕事部屋があり、リビングには奥様のウェイウェイさん手作りの壁掛けオブジェが楽しい。広さは大体3LDK、価格は30万元ほどで、頭金を払い、毎月2千元ずつ10年払うという。中国では珍しく靴を脱いでスリッパを履き、大きなソファーに座って、大型TVでDVDの美しい映像を見ていると、狭い日本の部屋に帰るのが嫌になる。

 この春は、「装修」(リフォーム)の話をあちこちで聞いた。
 国営企業が傾いて、露店で靴を売る仕事で再出発した王さんご夫妻も、貯金してマンションを購入し、現在「装修」中。価格は10数万元で、頭金を払い、残りは毎月500元支払う。以前の部屋を人に貸し、その家賃を返済に当てるという。一人娘のお嬢さんの将来を考え、結婚に備えて購入を決心したそうだ。
 天津市で技術者をしている謝さん夫妻も結婚を機に「装修」し、築20年のアパートの一室を手作りでリフォームしてしまった。美しい壁紙を張り、出窓を作り、カーテンレール部分や天井など、立体的な彫刻風の飾りを取り付け、外資系ホテルのスイートルームかと見紛うばかりの優雅な造り。謝さんのお父さんも同居しているが、お父さんは「そういう部屋は勘弁してくれ」と断ったので、以前のまま。お父さんの部屋を拝見するにつけても、いかに謝さんの腕がすばらしいかわかる。
 ただ不思議なのは、どの家も、お風呂場にバスタブがなく、海の家のようなシャワー設備しかないということだ。日本ではお風呂に凝る人が少なくないが、中国ではお風呂はどうでもよく、客間を美しくすることが最大の関心事。温泉気分で自分の時間を充実させたいのが日本の家とすると、お客さんや友人を招いて社交の場として充実させることが中国の家にとっては大切なことかもしれない。
イラスト/浅山友貴
         


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