映画は美食なり




写真:『春風得意梅竜鎮』 大衆電影・1999年第4期
中国映画の現在
張頤武・戴蔚然(東京大学)

 美女、美食と高級車は今日、商業映画に欠かせない三要素だといえよう。特に食文化に長い歴史を有する中国においては、美食がしばしば映画の主題となり、数多くの見栄えのする料理が、映画にさまざまな味わいを醸し出している。
『満意不満意』は60年代に製作された映画だが、当時の中国はまだ食料の供給が十分でなかった。この映画の舞台となった蘇州の有名な老舗レストラン―得月楼でも簡単な麺類しか供することができず、中華料理における焼く、炒める、煮る、揚げるといった複雑な技と見るからにうまそうな料理の数々を見せることは、明らかに当時の実生活とは大きくかけ離れたものといえた。このため、この映画は主題をレストランの従業員の話に置き換え、仕事になかなか身が入らない青年が周囲の人たちに助けられ、最後には客に誉められるようになるという話にうまくすりかえている。
80年代には更に『満意不満意』の続編『小小得月楼』が製作された。このころになると中国人の生活水準もかなり向上し、中国は再び美食天国となり、得月楼も自ずと規模が大きくなった。かつての若い従業員はすでにベテラン・シェフに成長し、映画の中のレストランのメニューは有名な中華料理で埋め尽くされ、客の宴席はますます豪華になり、名声を聞きつけて、遠路はるばるやって来た外国人客までが登場する。こうして映画は、中国の改革開放政策以降の人々の生活の新たな装いを映し出していた。
90年代に台湾の監督李安が撮った『飲食男女』はグルメ映画の経典といえよう。主人公の老シェフは一生の内に数々の見事な料理を作ってきたが年老いてからは3人の娘たちとどうしようもないすれ違いが生じ、寂しさや悩みに耐えきれずにいる姿が映しだされている。テーブルに並んだ見事な料理を前にしても一家4人は少しも食が進まない。どうやら、うまい料理も今日においては、もはや胸襟を開き、大いに食を進めるものとはならないようだ。実生活における悩みや苦しみの前では、どんなに多くのうまい料理も無力だということである。観衆はこの一家の見事な食卓に嘆息すると同時に、食が進まなくなるほど抑圧された心情も体験せずにはいられなくなる。
99年の『春風得意梅竜鎮』や『満漢全席』など、近年グルメ映画は後を絶たないが、人々はますます食べ物の持つ独特の魅力を認識しはじめたようだ。映画は人生の縮図であり、飲食も人情に通じる所があり、さまざまな人生の中で、多彩な味わいに変化するものである。(原文中国語)


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