ゆきちゃんの
おいしい中国語

題 排骨(スペアリブ)事件




 学校の試験には決して出ないが、忘れられない中国語がある。それは 「●(duo)」だ。これを知らなかったばかりに人指し指が飛んでしまうところだった。今でこそ便利になったが、6、7年前は、自由市場か国営商店で「何肉を何斤(1斤=500g)」と注文しなければならなかった。初めて排骨肉(骨付きのスペアリブ)を買うことになり、とりあえず3斤注文したが、その後がいけなかった。「骨ごとに切って」と言うつもりで「切 (qie)」を使ったところ、何やらわーっとまくしたてられた(「切」は 主に「薄切り」あるいはせいぜい「角切り」に使うので、骨付き肉をそんな細かく切れるか!と怒鳴られたらしい)。しかし、その時は訳がわからず、そのまま持ち帰り、しぶしぶ慣れない中華包丁で切り離そうとしたのだが、一瞬の気のゆるみから、人指し指の上に包丁を振りおろしてしまった。爪がぱっくり半分飛んで、声にならない悲鳴を上げていた私のもとに駆けつけてくださったホームステイ先のお父さんは「爪だけ切って指が無傷とは、大した技術だ。」と言われたのだった。そう言われると何やら手柄を立てたようで、二人で笑ってしまった。笑いながらお父さんは「肉屋で排骨を切ってほしければ"duo"と言いなさい。」と教えてくださった。爪の半分飛んだ指と、骨つき肉の山、中華包丁の光景とともに、「●」は私の頭に貼りつき、豪快な中華料理の原風景となっている。〈浅山友貴〉 ※写真のキャプション金廣照さん1980年、家族とともに



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