ゆきちゃんの
おいしい中国語

熬薬/薬を煎じる




 漢方薬をもらうと薬を煮出す「熬(ao)」いう作業をする。お粥を煮るような丸っこい土鍋に、水と、漢方薬を思い切って全部どさっと入れ、後はとろ火でゆっくり煮出して、薬を煎じていく。やがて苦そうな、やや甘みの混じった、曰く言いがたい恐ろしい香りが部屋中に満ちてくる。濃い茶色のやや重い感じの煎じ汁ができると、熱いうちに飲み干さなければならない。猫舌には、最悪の飲み物の一つだ。最悪と言えば、姜湯(しょうが湯)。すりおろした生姜を「熬」して、砂糖を大量に入れる。
 以前、風邪気味で、どちらかというと、少し朝寝坊がしたくて、ぐずぐずしていた。すると、ホームステイ先のママが、この姜湯を巨大なお椀に一杯作ってくださり、全て飲み干すよう宣言したのだった。
 日本人はなかなか「不要」と言えない。「ちょっと」等と言うことで十分に伝えられるからだ。しかしこれは中国では全く理解されない。ママは「全部飲んで!」と仁王立ち。本気で心配してくださっているのだ。結局全て飲み干すことになった。そんなに大量の姜湯を飲んだらどうなるか。ゆでダコのように真っ赤になり、大汗をかいて布団の中で高熱を発し続けるほかない。
 日本語の「煎じる」には何の実感もない。それにまつわる経験がないからだ。しかし「熬(ao)」という言葉には味や香りの記憶が詰まっている。
〈浅山友貴〉



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