北京の隆冬
高喜美(元・北京第二外国語学院)


イラスト/浅山友貴




 街の並木のポプラなどは何度かの木枯らしでとうに坊主頭になり、寒空を衝いて立ち並んでいる。北京の12月は隆冬(真冬)である。老人の居る平屋家屋などでは10月の末ころからストーブを焚き始め、団地・学校・役所なども11月半ばにスチームが入る。外で風が吹きまくろうと、室内はほかほかでホッとするころ、旧正月の春節にはまだ間があるし、冬の夜長も苦にならない時季が12月だ。
中国では冬でも通勤通学一斉に8時。このころの北京は夜明けが遅く、本当に暗いうちに起きないと万事間に合わない。で、朝が辛い。まだ足元が薄暗いうちからだんだんと明るくなるにつれ、人々の往来も通勤通学に徐々に激しくなってき、路地、表通りは活気づいてくる。みな分厚い手袋、防寒帽、外套に身を固め急ぎ足だ。北京の人は普通、朝食は外で買ってくるか、外で済ませる。朝食専門のお店「早点舗」があり、そこで朝食をとるのも老人の楽しみの一つだ。
 核家族で両親とも勤めていれば小学生の子どもは父親か母親どちらかに連れられて朝は外食。子どもが席を取り親が行列でワンタンと油餅(揚げどら焼き)を買う。客は多くほとんどが急ぎなのでどうしても揚げるのを行列で待つことになる。込んでれば出勤の途中なので立ち食いも出てくる。ゴソッと買っていく人は持ち帰って一家で粥をすすりながら食べる口だ。

  真冬でも露店の朝市には人が集まってくる。お店のより安いし新鮮な青物ならやはり朝市でというわけ。でも最近は北京市の区画整理で露店を取り締まっているので朝市も残り少なくなり、それも指定の場所で9時か遅くとも正午までで店じまい。ここでは安物を承知なら衣食住、ちょっとした日用品まで一応そろっている。ただ凍りやすい野菜・果物は籠に入れ布団などをかけてちょっとのぞかせ、手は指先の出ている手袋をしてるか両手を互いの袖口に突っ込んで白い息を飛ばして客を呼んでいる。雪が積もった日、風の日、市は出ない、あまりにも凍てついて野菜なんかそばから凍るから。
 凍って困るのは道路、バス・タクシー・自転車がよく往来するのに除雪の手が届かない道路。雪の次の日、いったん溶けたのが一夜明けるとでこぼこに凍った道。これが出勤時の十字路なら、信号が赤になった途端、先頭の自転車が急ブレーキでバターン、とその後ろの自転車も次々と将棋倒しならぬすてーんころりんだ。実に冬ならではの光景だ。
 北京の本格的な寒さは年末の冬至から。12月21、2日ころの冬至から、19、29、39…99と81日間を9日ずつ区分し長い冬の寒さのめどにする。一番寒い時は29・49に当たる1月中旬ころで、北海公園の湖はスケート場に早変わり、河も凍って歩いて渡れる。この時季になるとスチームもなんだか効かなく感じてくるし、洗濯物をすぐに外に干すとそのままの形でたちまち凍ってしまう。濡れた手で外のドアのノブでもつかもうものなら危うく凍りつくほどだ。
イラスト/浅山友貴


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