世界の街角で
ひいたあなたが悪いのか、ひかれた私がバカなのか。【七七子】


 去年、香港へ行った時、香港在住のK伯父さんとO伯母さんと昼食の約束をしていた。その約束の場所へ向かう途中の話でR…。
 香港へ行った人はだれでも知っていると思うが、とにかく車と人との関係がおもしろい。信号はあってないようなもの。車が走っていなければ、どんな道路でも人はバンバン渡っていく。車の方は、もちろん赤信号の時は止まっているが、車道や横断歩道で、人が横断していてもスピードを下げようとはしない(ひいてもかまわないという感じ)。そんな道路事情で、私も道路を渡るときはいつもドキドキする。
 信号待ちをしていた時、車の流れが少し途切れた。
 その瞬間一人の青年が飛び出した。
「エッ!」いくら車の流れが少し切れたとはいえ、すぐ10メートル先にはタクシーが勢いよく走ってくる。その瞬間、「ドンッ」と鈍い音と共に、その青年はおもちゃが宙に舞うようにタクシーのボンネットの上で3回転(ゴロゴロゴロ)。
 予期せぬ事故に我を忘れ、とっさに日本語で「救急車、救急車」と叫んでいた。周りの人も彼を助けようと車道に飛び出した。「死んでしまったのではないか、イヤかろうじて生きているのでは。きっと口から血を吐いて苦しそうにもがいているのではないか。」と短い間にいろんなことを思い、かたずをのんで彼の安否を見守っていると、突然その青年は立ち上がり、散らばった自分の荷物をかき集め、なんと大衆に向かって飛び跳ねながら何度もガッツポーズをして、逃げるように走り去った。走る青年を見てタクシーの運転手は「捕まえてくれ!」と叫んでいる。
 なんだかさっぱり訳がわからない私は、目がきょとん…周りは騒然としている。一体全体どうなっちゃってんだろう?だいたいあの青年は車にひかれて3回転したのになぜ走れる?(君は仙人か、はたまたカンフーの達人か、それとも一瞬のうちに気功で治したか?)
 私は頭の中が混乱しながら、K伯父とO伯母の待つところへ急ぎ、あいさつもそこそこに事故の様子を支離滅裂に話した。
 なんとびっくり、K伯父とO伯母の第一声は、「あーその青年は逃げたのよ。」はぁ?逃げるってそれどういうこと?
 K伯父・O伯母「香港はね車優先社会で、車にぶつかったあんたが悪いという法律でできているのよ。車にひかれて死んでも支払われる保険金は最高でも日本円で40万円だけ。
 たとえ死ななくても治療費や入院費は全て自己負担。だからあんたも香港では気を付けなさいよ。」
 「うっそぉー」
 K伯父・O伯母「それに、その事故で車に傷でもつくっちゃったらその修理費を弁償するのよ。」
 じゃさっきの青年はひき逃げならず、ひかれ逃げってこと?お国変われば習慣も変わり法律も違うってまさしくコレ。
 旅行先で交通事故にあっても40万円しか支払われないなんて…まし、てや4、5日の旅だから海外保険に入らなくてもいいやなんて、ケチなこと言ってた自分に反省。それに残された家族は葬式代はもとより航空運賃さえも出やしない。はぁー、ケチはいいことない ウンウン。ずいぶんと考えさせられてしまった。
 ブルーな気持ちのまま帰国…
 この話を、香港から来ているコックさんに話したら、笑いながら「40万ソレ ウソヨ、アンタ タマサレタヨ」だって。
 なんでも以前に交通事故で、被害者に日本円にして1千万円支払われたことがあるというのだ(これも時と場合によると思うが)。単純な私は「くそっ、からかわれた」と、悔しがっていた。だが、よくよく聞いてみると、日本に比べたら車優先社会なのは確か。赤信号を無視して横断歩道を渡ってひかれた場合は、ひかれた本人が悪く、逆に賠償を要求されるらしい。そこはやはり日本と違うところ、日本はあくまでも人間優先でできているし、たとえ赤信号を無視して横断しても「前方不注意」で運転手が裁かれる。うーんやっぱりお国変われば何とやら……
 この一件から私は、海外へ行く時は必ず保険に入るようになった。これも、O伯母達のおかげである。どうもありがとう…しかし、走り去った青年はその後無事だったのであろうか。 …今でもそれは謎でR…。


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