これはなぜ?

暦の話


【神 田 泰(文部省国立天文台/助教授)】

 中国の「春節」は旧暦(太陰太陽暦)1月1日のお正月。日本と中国で天体の計算が同じようにされているとすると、日本と中国の旧暦の日付は同じはず。ところが今年、旧暦1月1日は日本では新暦(太陽暦)2月8日にあたり、中国では2月7日。これはなぜ?

 「春節」がやってくる。なんてひびきの良い言葉だろう。中国の最大の伝統行事と聞く。日本風に言えば「旧正月」。そういえば、昨年の12月ごろから国立天文台の質問電話に頻繁にかかってくるようになってきた、「日本と中国の旧暦の正月が違うけれど、どうしてですか」。

 旧暦を作るとき計算の基準になるのは、朔(さく/新月)の日付で、この日を旧暦の各月の第1日とする。朔の天文学的な定義は太陽と月の黄経が一致した瞬間ということである。朔の瞬間を含む日を朔日(ついたち)とする。今年2月の(なぜ2月なのかここでは触れない)朔は世界時で2月7日15時6分だった。

 時差を考えると、中国では2月7日23時6分、さらに日本では翌日の2月8日0時6分となる。このようにして、旧暦の正月の朔日の日付は中国では2月7日、日本では2月8日となることになった。

 中国の旧暦の表をそのまま日本で使用することができない理由がおわかりいただけたことと思う。今世紀中に旧正月の日付が中国のそれとずれた回数は7回、1916、44、54、58、66、88、そして97年である。それほど珍しいことではないことがわかる。

 旧暦(正しくは太陰太陽暦)という言葉を前置きなく使用したが、わが国では明治五年の改暦以来、公式には旧暦は存在しない。この改暦以前は天保暦が使われていた。そこで、現在、旧暦を作る場合にはこの天保暦の基準を準用している。準用というのは、数値は現代天文学によって与えられる値を使用するからである。

 旧暦を復活させるべきであるという意見も聞く。しかし旧暦はあくまで月の満ち欠けを第一に考え作られたもので、季節からずれないように閏月を入れなくてはならないものであることを強調したい。

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