この曲この1枚

『ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲』

【モーツァルト】



中華書店【劉継忠】


 『アイネ・クライネ』や『四十番』等を聞き終えて、さて「次なる一曲はどれを?」とお考えのモーツァルトファンのあなたに、是非お奨めしたいのが『ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲』だ。

 この曲は、天才モーツァルトが旅の日々に経験した、青春の喜びと悲しみ、移ろい易い人の世のはかなさ、最愛の母との永遠の別れといった出来事が彼の心に与えた深い痛手を率直に表した佳曲である。モーツァルトのみが書き得た「笑顔で涙を表現」した第1楽章と、憂愁の翳(かげ)濃い詠嘆的な第2楽章、快活さと諦観が微妙に明滅する第3楽章の3つの楽章からなる。

 数あるこの曲のCDの中で、中国に関係するものというと、台湾出身のヴァイオリニスト、チョーリァン・リン(林照亮)がヴィオラのラレドと組んで入れたCD(SONY/SRCR9275)があるが、その演奏は若々しく、清冽(せいれつ)で大変好ましい。彼のヴァイオリンの音色はこぼれるように艶やかで美しく、ラレドのヴィオラともども感覚的な快感さえ覚えさせる。颯爽としてリズミックなレッパードの好サポートを得て、30余種発売されている同曲のCDに伍(ご)して、充分その存在価値を誇れる秀演である。

 風薫る初夏の宵、香り高い烏龍(ウーロン)茶でも飲みながら、この名曲に耳を傾けていると、はるか200年の歳月を越えてモーツァルトのため息が聞こえてくるようだ。


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