この曲この1枚

無伴奏チェロ組曲

【J・S・バッハ】



中華書店【劉継忠】


 滔々(とうとう)と流れるチェロのアルペジオに乗って、6人乗りのボートが広々とした川を溯(さかのぼ)っていくウィスキーのテレビCFが一時よく放映されていた。また最近ではT社の高級乗用車のコマーシャルで、律動的で優雅なチェロの響きがその乗用車の高級感を一段と引き立てている効果的なCFが流されていた。この2曲はそれぞれJ・S・バッハの作曲になる『無伴奏チェロ組曲』の第1番と第6番から採られたものである。これらの組曲は全部で6曲あるが、各組曲とも独立した楽曲なので全曲をまとめて聞く必要はなく、取りあえず雄大で朗々とした第1番や、低音楽器としてのチェロの魅力を余す所なく引き出した第3番、あるいは暗く激しい幻想的な第5番あたりから聞き進めていくのが良いであろう。

 パリに生まれ、アメリカを中心に活躍する中国人チェリスト馬友友(ヨーヨー・マ)が1984年に録音したCD(SCISRCR2065)は流麗闊達(かったつ)で秀逸な演奏である。難曲を苦もなく弾き切るその完璧な技巧は、芳醇な音色と共に文句なく人を酔わせる。第1・3・5番の3曲を抜粋した本CDはこれからこの曲を聞こうとする人にピッタリのCDだ。

 あとこの演奏に不足するのは唐詩や俳句に通じる「余白の美」であろうか。だがそれは録音当時29歳だった馬に望むのは無理というべきであろう。40歳を越した今、再録音を期待するのは筆者ばかりではない。


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