(No.4-9710)【曽徳深】
 「はるかはなれた そのまたむこう だれにでもすかれる きれいなむすめがいる」
 中国で愛唱され続けている「草原情歌」というラブソングである。私が中学時代に最初に覚えたのは中国語の歌詞で、原詞は「在那遥遠的地方 有一位好姑娘 人們走過了●的帳房 都要回頭留恋的張望」、直訳すると「はるか遠い所に、よい娘さんが一人、人々が彼女のテントの前を通ると、だれもが恋々として去るに忍びずのぞいていく」となる。原詞と訳詞とを並べてみると、いかに訳詞が省略を行っているかがわかるが、メロディーをつけて歌うと、日本語歌詞はとても歌いやすく、甘い旋律とあいまって、歌の表現しようとするものを過不足なく伝えている。

 漢字一字が持つ情報量は、かな一字に比べ、はるかに多いということはだれもが知っているが、メロディーの助けがあるとはいえ、33文字のかなで31文字の漢字の内容を表現してしまうというのはやはり驚きである。俳句を漢語17字に訳した作品を見ると人間の創造力の不思議と偉大さにさらに驚かされる。

 ところで今回の小文は中日のことば比較となったが、経済的問題がキッカケなのである。去る7月横浜みなとみらい地区に新たな商業施設ができ、先発のランドマークタワーと一緒になって、一層顧客吸引力を強めたことで、旧商業地が影響を受け、元気印の中華街の経営者達も危機感をつのらせている。どうやればお客さまを引き止められるかを議論している最中に、「草原情歌」の一節が思路に現れた。草原の好姑娘は「好」であるために、はるか遠方からもファンを引きつける。中華街の「好」は何か、これからもっと真剣に考えよう。


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