中華街でニイハオ!
奔(HON)



王節子さん(インタビューアー曽峰英)

 石川町駅北口から中華街へ向かう…。白と緑色に彩られた中華街西門をくぐると、両側に横浜市立港中学校と同港商業高校があり、さらに先へ進むと右角に去年建設された山下町公共駐車場がある。一見駐車場とは思えぬほど夜には美しくライトアップされ、その横には全長12メートル、ガラス張りの展示スペース「九龍陳列窓」がある。この展示スペースの目的は「中国文化や中華街を紹介することで、街づくりに役立てる」というもので、中華街に関係する女性九人で結成された「九龍委員会」が企画し、この5月〜7月にはこの地域に住む5つの学校の子供たちが共同で制作した作品「地球の幸せ」を展示した。子供本来の持つまっすぐな感性が大変な評判であった。

 非常にパワフルな人物、王節子(オウセツコ)。横浜山手中華学校の美術教師であり、この九龍委員会のメンバーの一人である。また、自分のアトリエで地域の子供たちに絵を教えるなど、活躍の場は広い。

 福岡県の久留米市に生まれ、父は福建省出身の二世、母は一世である。本人は小中高、大学と日本の学校へ通う。好きな画家はピカソ。美術を学ぶため大分大学の教育学部美術科へ進み、自分が表現したい絵を描くと、どうしても百号(畳二畳分)と大きくなるため、馬小屋を改築した所をアトリエ兼住居とする。

 美術を通した児童教育の中で「子供の心のレンズを通した作品づくり」が私のモットーなんです。とにかく子供たちには目に映るもの、手に触るもの、すべてを肥やしにして欲しいから「お金をかけずにアイデアで」という自分のポリシーはありますね。鳥がテーマの時は手塚治虫氏の「火の鳥」を授業に盛り込み、孫悟空がテーマであれば棒を持たせて孫悟空になりきらせる。こうして遊びながら勉強させるとすばらしい絵が生まれるんです。自分の中で解釈して、ポンと出しなさいということなんです。それができていれば技術が稚拙でも表現が稚拙でもそれでOKなんです。

 今、中教審の中で授業を削減するために、美術科と音楽科を結合させて表現科にしようという動きがあるんです。美しい、悔しい、楽しいとかいう感情面を教えないで教育していくことなんて考えられません。感性を養う面が欠落するといびつな人間が生まれ、アンバランスな人間が生まれるんではないかと恐怖さえ感じます。神戸の淳君殺害事件も容疑者に対し「残酷だ。残酷だ。」と言っても、彼には残酷という感性が育っていないんです。

 今、自分はルワンダの内戦で心が傷ついた子を支援したいなと思っているんです。子供たちは生まれもって絵を描く能力があって、内戦があるために絵を描けない、それがなぜかと考えると心も痛みます。世界中の子供達と言葉は通じなくても、向こうへ出向いていって絵を通してつながっていく…、自分がそういうことのできる人間になりたいと思っていますし、どの地域にいても、どの学校にいても、どんな背景で育っても、子供達の造形表現は世界共通で、造形を通して世界がつながっていけたらと思います。

 九龍壁については、「街づくり」は「人づくり」だと感じています。あれだけきっかけがあれば、これだけ盛り上がるんだと分かったし、さらに自分のライフワークと作品を重ねていけたということに感謝しています。また、この九龍壁の作品づくりに協力してくれた5つの学校の一つ横浜中華学院に、事前に作品制作についてお願いしたところ、「全面的に協力しましょう」と校長先生に言われて胸が熱くなりましたよ。しがらみや難しいことがたくさんある中、少しずつでもこういうことが積み重ねて行けたら、もっともっとすばらしいこともできると思います。



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