この曲この1枚

交響曲1997「天、地、人」

【 譚 盾(タン ドゥン)】



中華書店【劉継忠】


 この曲は、1997年7月1日の香港の中国への回帰を記念して、中国政府から委嘱を受け、譚盾により作曲されたものである。

 曲は「天」「地」「人」の3つの楽章から成り、演奏時間72分を要する大曲で、過去を暗示する編鐘と未来を表す児童合唱、歴史の証人としての語り部の独奏チェロ(ヨーヨー・マ担当)が華麗な大管弦楽と相和して、香港の苦難の時代と闘いの過去を回顧し、今祖国の懐に戻った喜びと将来の繁栄を高らかに歌い上げる。

 1953年に湖南省で生まれ、現在はニューヨークを中心に活躍する譚盾は、その自由奔放な音のぶつかり合いや、大胆な曲想によって、世界的に注目される作曲家だが、この曲においては、そういう多少急進的な作風が抑えられて、有名な中国民謡『茉莉花』や、ベートーヴェンの第九交響曲の『歓喜の歌』等を巧みに駆使して、だれの耳にもなじむような記念碑的な大曲を創り上げた。香港の中国への回帰という世界の歴史の転換点に、東洋と西洋の音楽語法の結合によって生み出されたこの曲は、世界の音楽史の上で長く語り伝えられる画期的な曲になるであろうと思う。

 なおこの曲を聞いて譚盾に興味をお持ちになった方には、次に『マルコ・ポーロ』や『鬼戯』等のご試聴をお奨めする。多少大きなCDショップならどこにでもあるはずである。それほど譚盾はクラシック音楽では人気のある作曲家なのである。


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