(No.8-9806)【曽徳深】
 のど自慢

 日曜の昼『NHKのど自慢・イン・ブラジル』を見る。90歳近い一世のおじいさんから14歳の四世の女の子や、2日かけてブラジルの最南端からバスを乗り継いで駆けつけた出場者などが、満員の聴衆の声援を受けて熱唱、サンパウロの会場は一種の熱気に包まれていた。

 直前のNHKスペシャル「私はこの歌を歌いたい〜のど自慢・イン・ブラジル」を見て、ある程度の予備知識を持てたために、本番の『のど自慢』に私は見入った。
 演歌、ポピュラー、唱歌、民謡と、上手下手は別にして、誰もがのびのびと声を出す。ブラジルの広大な風土がそういう声を作ったのか?一世は、戦前の移民か戦後の移民かにかかわらず、誰もがしなやかな強さと端正さを表している。動機はさまざまだろうが、自分の意志で故郷を後にし、異国に新天地を求めた人間のもつ強靭さがある。

 戦前19万人、戦後6万人が地球の反対側に移民した。その中には「移民花嫁」という女性たちもいた。今日ブラジルの日系人は130万人。テレビを通じてみる限り誰も楽天的である。が一世は、言葉遣いやしぐさが端正で礼儀正しい。
 一世たちはおそらく、その時代の一番いいものと、一番いい思い出をもって国を後にしたのであろう、それが歌を通して訴えて来て聴くものの胸を打つ。あの時代の日本にはこんな良さがあったのかと気づかせてくれる。

 「江差追分」を歌った老人がいた。農業学校を卒業して19歳で移民する3日前、父親がはなむけに歌ってくれた歌である。それ以来父親には会っていない。


目次ページへ戻る

横浜中華街
おいしさネットワーク