世界の街角で
中国の本当の広さ、教えます
福建省紀行(その2)

(七七子)
illusutroation【会見千春】 


 日本の烏龍茶ブームと共に、またたく間に知れ渡った福建省という地名。烏龍茶生産地の中でもダントツの生産量を誇り、中国全体の8割方を占め、いま日本で販売されている烏龍茶のほとんどが福建省産のものである。またちまたではよく「中国は大きい」「広い」と言われているが、実際どのぐらい大きいのか全く見当がつかない。中国には28の省があり、その中の一つ福建省の大きさは、日本列島がおおよそ一個半入るほどの大きさだ。さらに、海外で生活する中国人、華僑は、統計によると大半が広東省出身、次に福建省出身であり、特に長崎の在日華僑は福建省出身者が多い。

 その福建省に97年6月、私は初めて足を踏み入れた…。

 今回の旅の最終目的地である「南洋」までいろいろな交通手段を経て、日本から直行すると約12時間の長旅となる。成田から香港へ、香港から飛行機で福建省第二都市のアモイへ、そこから次の目的地「章平」までは汽車で6時間弱、さらにそこからバスに乗り継ぎ一時間、町を抜け、山間を抜けて最終目的地の「南洋」へ到着する。
 この長旅の中でも、6時間の汽車の旅は車窓からの風景を楽しみにしていたが、福建省は平地が少なく山だらけだ、その山々も烏龍茶の栽培に適した赤茶けた山だが、その山が往復十二時間もの間、私のアングルから消えない。唯一、変化があったといえば、次の停車駅までの1時間の間、その町の特産物の畑が延々と続く…、そして背景には必ず赤茶けた山々が…。一時間も風景が変わらないなんて日本では到底考えられない。バナナが特産物であれば一時間ずっとバナナ畑が一面に広がり、停車駅ではその特産物を電車の窓越しで一籠(2房〜3房入)200円ほどで販売している。
それを国内観光客は土産にと、二籠も三籠も購入するのだ。いわば日本でいう「峠の釜めし」状態で、釜めしを6個も7個も土産にするのと同じである。駅を出発すると次はタバコ畑が一面を覆い、さらにその先へ行くと赤茶けた山一面にお茶の段段畑が広がり、ふもとには川が流れている…。この風景も一時間を超えると私たちの会話は「今どんな風景?」、「山と川」、「じゃ変わったら教えてね」となる。そう、この会話も広さゆえなのだ。
  しかしこの広大な風景も、「世界の車窓から」で放映したら、この延々と続くバナナ畑も五秒ぐらいで終わってしまうのだろうか…。 旅の最中、現地の人に「この近くに有名な花の産地があるから行きましょう」と誘われた。私はかなり疲れていたので少し休みたいと断ったが、どうしてもという押しに負け、「近いと言ってるし、まいっか」と南洋からバスに乗り、出発した。この時、現地の人との完全なる尺度の違いと、恐怖を感じたのだ。

 山なりの道はカーブが多く、その上舗装されてない、もちろんガードレールもない状況の中で、対向車とすれ違うのは至難の業だ。だが現地の人は慣れているのか、スピード狂なのか、常に80キロ〜100キロのスピードで走る。伊豆の「天城越え」を走り屋とともに走行しているかのようだ。しかし、近いと言っていたはずが一時間経ってもまだ着かない。「あとどれくらい?」と聞くと「近いよ、あと2時間ぐらいかな」である。

結局延々3時間…、いつ死んでもおかしくない状況の中やっとの思いで着いたのは花の産地「永福」。私は花の産地というと北海道のラベンダー畑を想像していたが、あっさりと裏切られ、連れて行かれたところはビニールハウス。中には植木鉢がずらっと並んでいるが、花そのものの姿は全く見られない。それもそのはず、その時季は花の咲く時季ではないから花がなくて当たり前なのだ。「この疲れた体にムチ打って、死ぬ思いでここまでやって来たのに、なにこれ?」と怒りが頂点に達しようとした時、ビニールハウスを取り仕切る責任者らしき人が「これは昨年賞を取った蘭の花です」とニコニコと自慢げに植木鉢の一つを指して教えてくれた。しかし、そう言われても…花の姿はどこにもない…。だが説明を続ける彼はとても満足そう。同行していた現地の人も「ほー、それはそれはみごとな蘭の花が咲くのでしょうね」と相づちを打つ。さらに「えーこれは…」とまだ続いている…。ここまでくると腹が立つというよりも、逆に予想もつかない彼らの会話を聞いて楽しむ自分がいた。

  国も広ければ心も広い、広いという本当の意味を、現実を、堪能した旅であった。




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