(No.13-9902)【曽徳深】
 「親がなくとも、子は育つ」という言葉がある。娘が結婚するときに、これを引用して、皆さんに感謝の気持ちを伝えた。

 この言葉に対する私の理解の仕方は、一つは子供は自ら育つ力を持っている、二つには子供は学校の先生、仲間、周りにいる大人に支えられて育つ、である。この考えは結婚式の熱気が冷めた今でも変わらない。

 大庭みな子が河合隼雄の「家族関係を考える」を評した一文にこうある。「経済の崩壊が大きな人類の危機のように騒がれる昨今であるが、経済の崩壊などは人類の生存にとってさしたることではない。その下に深く潜行して進んでいる家族の崩壊や、教育の荒廃、あるいは人間関係の悪化などこそ、いったん崩れたものを取り戻すには数世紀も必要とする深刻な問題なのに、口では危機を叫んでも、腰を入れて対策を立てる政治家は皆無に近い。教育というのは一世代、二世代あとに慌てて回復を心がけても、修復にはその何倍もの時間を必要とする難事業なのにだ。そして、本当の意味の次世代の教育は学校で与えられるものでなく、家族の中で行われるべきものなのだ。」

 社会の根幹に家族がある。肌をふれあい、心を寄せ合う家族の存在は、人間が生きていく上で果たす役割は重要である。おそらく、家族が健全に機能し、またコミュニティーや社会が家族的な役割を代わりに果たすことができた牧歌的時代に、「親がなくとも……」の諺が生まれたのだろう。これからの時代でもそれが生き続けることを願う。さて、最後に自作の諺?をひとつ「子がなければ、親は育たない」、これは実感である。


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