音楽の愉しみ

『ラ・ボエーム』の引力



 三大テノールで知られるパヴァロッティというオペラ歌手が1986年に北京を訪れている。その時のVTR「パヴァロッティインPEKING」を見ると彼のもった古都へのあこがれ、京劇への関心、中国固有の民族芸能を学ぶ次世代への温かい眼差しに深い共感を覚える。

 その時もっていったオペラが今回紹介する『ラ・ボエーム』である。物語の舞台はパリ下町の屋根裏部屋。ここに住む詩人のロドルフォとその仲間たちの生き様が縦糸となり、ロドルフォとミミの恋が横糸になって織り成す青春群像である。第一幕では寒さとひもじさで詩作に身の入らない主人公のもとに火を借りにきたミミ。2人は一目で恋に落ちる。クリスマスイブを祝って街に繰り出す第二幕ではパリで当時大繁盛していた「カフェモミウス」の場面があり、19世紀末の街のにぎわいを見ることができ興味深い。第三幕の雪の日の別れ。そして終幕のミミの死へと続くのだが、愛だけでは救えない貧しさゆえに苦しむ若者たちの哀切な思いが心を打つ。

 作曲者はJ・プッチーニ。甘く美しいアリアがふんだんに盛り込まれたオペラである。出会いの時歌われる「冷たい手」「私の名はミミ」、第二幕のムゼッタが歌う「私が街を行くと」、第三幕の「さようなら」等のアリアはいつ聞いても人の心を切なくさせる。このオペラは北京っ子の拍手喝采を浴びた。

 昨秋人民文化宮(太廟)を舞台にオペラ『トゥランドット』の合作公演が行われ日本でも話題になったが、日ごろからこうした建築遺産がオペラの舞台装置にマッチすると考えていた私は合点がいく思いである。このVTRはLDとして最近発売されている。

 


目次ページへ戻る

横浜中華街
おいしさネットワーク