音楽の愉しみ

『カルメン』の魔力




 このコラムは6回の読み切りで間もなく大詰めを迎える。今回はオペラの中のオペラとして『カルメン』を取り上げたい。
 『カルメン』は日本で最も親しまれているポピュラーなオペラの一つである。この春もルーマニアからチェコからと公演は目白押し。作曲はビゼー、フランス語によるオペラである。物語の舞台はスペインセビリア。タバコ工場に働く美貌の女主人公カルメンはジプシー、自由奔放情熱的に生きている。カルメンと運命的恋に落ちるドンホセは故郷の母親と婚約者に思いを残しながらも誘惑に負け翻弄されるまま軍隊を脱走し密輸団の一員に身を落とし破滅していく。
 オペラはスペインの美しい旋律と独特のリズムが全編を覆う。アリアは「ハバネラ」「セギディーリャ」「花のうた」、そしてあの有名な闘牛士のテーマは前奏曲に表れ、さらに劇のクライマックスで闘牛士によって歌われる。この勇壮無比の闘牛士こそは恋敵その人である。アリア以外にも美しい旋律は随所に表れる。オペラは前奏曲と3つの間奏曲を持つが終幕のそれは2人の破局を暗示し官能的音楽世界を形成する。
 オペラのタイトルロールはソプラノが専売特許のようだが『カルメン』はメゾソプラノ。A・バルツァというギリシア出身の歌い手が当たり役としている。ホセを演じるのは三大テナーの一人、J・カレーラス。純朴で誠実な青年が恋の魔力に取り付かれ苦悩し次第に荒れすさんでいく姿をせつなく演ずる(87年版メトロポリタンライブより)。
 ジプシーカルメンの情熱と自由への希求は社会的にも時代的にも、受け入れられることなく悲劇へ突き進みオペラは幕となる。

 


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