世界の街角で

癒しの国ラオス

(文と絵と写真/加藤暖子)


 ビエンチャンと聞いて、「あぁ、ラオスの首都ね…」なんて即答できる人は少ないであろう。私も自分がラオスに行って初めて覚えた街である。というわけで、なんの潜在意識も偏見も持たずに訪れたビエンチャンの第一印象は、というと…しょぼい…の一言であった。
街はとにかく小さく、高い高層ビルはひとつもない。車の量、人の量を見ても、これが一国の首都だなんて、まさに「しょぼ」すぎて信じられなかった。
 到着の日は日曜日。銀行も両替所も全て休み。ツアーでもないので、仕方なく(?)、闇両替に出かけた。で、またまたびっくり。ラオスの通貨単位は「キップ」、私は交渉の末、50ドル(US)札一枚を両替すると、「186、000キップ」になった。18万6千…しかも一番大きい札は1000キップ、ほとんどの金は、100キップ、500キップ札で渡された。考えてもみてほしい、100円、500円札だけで18万…ご想像の通り、一枚の札はとんでもない札束に変身を遂げたのである。小市民の私は、ゲストハウスの部屋に戻り、札を広げて記念撮影をした!
 夕飯(ラオスに入って初の食事)を食べにメコン川沿いの屋台に行った。コーラ、ビール、フルーツ、野菜などが氷の上に並べられ、とても涼しげである。普段私は酒をおいしいと思ったことなど一度もないし、ひとりで飲む習慣もないのだが、その時はビアー・ラオというラオス産のビールを注文した。大正解であった。メコンを目の前に、キンキンに冷えたビアー・ラオはものすごいおいしさで、今まで飲んだ酒の中で一番おいしかった。一緒に食べたハーブや香辛料たっぷりの炒め物も、まさにピッタリで、屋台のおばさんもやさしくて、急にラオスの印象は最高になった。人間なんてそんなもんである。 7月のラオスは雨季に入ったばかりだった。ある日の夜、日本に電話をしようと、国際電話局に行った。その日は一日ピーカンの大晴れだったのに、数分の電話の間に南国特有のスコールが降り出した。しばらく待っていたが止みそうもないので、外に出て愕然とした。ほんの7〜8分ほどの時間で、街中がメコン川になっていたのである。深いところは膝ぐらいまで水が上がっていた。雨脚がおさまらないので、店の軒先ごとに雨宿りをしながら走り出した。途中、走り出したはいいが、次の雨宿り場所が見つからずオタオタしていると、横から女の子が何か叫んでしきりに手招きをしている。走りよるとどうやらここで一緒に雨宿りしようと言っているらしい。彼女一人がやっとの小さな軒先に私を招き入れてくれたのである。私がラオ語ができないのがわかると、英語で「旅行?」と聞いてきた。話してみると彼女は地元の高校生。「ラオスはどう?」と聞かれ、「とてもきれいなところだね。」と答えると、彼女は急にとてもかわいい笑顔を浮かべ、「ありがとう。旅行楽しんで!」と言った。私も覚えたてのラオ語「コープ・チャーイ!(ありがとう)」で答えた。またしても「イイなぁ、ラオス」って思ってしまうのであった。
 小さな小さなビエンチャンの街にはワットと呼ばれる寺院が点在する。郊外にあるワット・シェンクアンという仏像の公園を教えてくれた人がいたので、行って見ようと小さなバスに乗り込んだ。バスは小型のワゴンで定員数は決まっていない。通路までギッシリ人を詰め込んだバスは5分もしないうちに更に田舎な景色に入っていった。乗客のラオスおばちゃん達もとてもたくましく、両手いっぱいの荷物を抱え、大きな声で談笑し、歌まで歌い出す。おいしいビアー・ラオの工場を通りすぎ、タイへ渡る友好橋も通り過ぎ、高床式住居や牛やニワトリなどにも慣れてきた頃、ふと気づくと、さっき見たはずのビアー・ラオ工場が道の反対側に見えた。「あれ?」と思うといつのまにか、さっきバスに乗り込んだはずのバスターミナルに戻ってしまった。 なんと、心地よくて熟睡している間に終点まで行ったバスはそのまま折り返してしまったのである。心地よいと言うのは、決して「バスの乗り心地」のことではない。ぎゅうぎゅう詰めの上、道は舗装されていないので乗り心地の方は超が付くほど悪いのである。自分があんまりにも深く寝入ってしまったことを信じられず、私は確認の意味も含め、その足で再びバスに乗りなおした。ビール工場も過ぎ、友好橋も過ぎ、高床式の家々が…と、なんと、私はこともあろうに、またしても熟睡し、気がついたときには4回目のビール工場を目にしたのであった。あったかい気候、人、景色、におい…それら全てが私を眠りへと誘うのである。今話題のヒーリング効果(癒し)とでも言うのか、それともただ単にワット・シェンクアンと私の間に縁がなかったのか?考えた末、「これ見るために、またいつかラオスに来よう!」という結論に落ち着いた。そう思わせる、すてきな国との出会いであった。








※写真キャプション 緑の多いきれいな街ビエンチャン
問題の札束!!
地元の人だって癒されてる…




 



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