この曲この1枚

夜想曲(ノクターン)

【ショパン】



中華書店【劉継忠】


 ショパンの夜想曲というと、多くの人がタイロンパーワとキムノヴァクが共演したハリウッド映画『愛情物語』の主題曲になったあの甘く切ない第2番を思い出すであろう。確かにショパンの作曲した夜想曲の多くは、それを大きな特徴の一つとしており、第2番はそういう側面を代表する作品といえよう。だが彼の夜想曲には「甘く切ない」だけではどうにも語り尽くせない、骨っぽく、男性的で、情緒のゆらめきを感じさせるような危なっかしい曲が多い。「愛情物語ノクターン」でノクターンは卒業したと思っている向きに、ぜひ第2番以外の辛口のノクターンのご試聴をお奨めしたい。

 全部で21曲ある夜想曲はちょうどCD2枚分の長さに当たるが、イギリス在住の中国人ピアニスト、フー・ツォン(傅聡)が演奏したCD(ビクターVDC5005〜6)は数多の同曲CD中の白眉である。

 フー・ツォンは上海の有名な文学者傅雷の子で、1958年、政治闘争が激しさを増す中国へ帰国せず、そのまま留学先のヨーロッパに留まり、イギリスを中心に活躍し、モーツァルトやショパンの名手として、現在では大家と呼ばれる域に達した名ピアニストである。西洋風にツォン・フーと呼ばれるのを嫌い、あくまでもフー・ツォンで通し、祖国を片時も忘れることがなかったという。その彼の弾くショパンは、一言で言えば激情のショパンである。

 ショパンもまた18歳で祖国ポーランドを離れ、異郷の地で活躍した望郷のピアニストであったが、フー・ツォンの演奏を聞いていると、思わず彼とショパンの境遇を重ね合わせて聞いてしまうのは、やはり異郷の地に生活する身だからなのだろうか?


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