世界の街角で

仏の顔は万国共通
商売の基本も万国共通


−−ベトナム紀行(その2)−−
七七子

 今、アジアでもっともエネルギッシュな国ベトナム…そして街全体が歴史の重みを物語っている…。

 ベトナム本来の生活習慣や伝統文化の中に他国の文化が存在し、北のハノイは中国、南のホーチミンはフランスの面影を今も残している。これも長い間他国の支配下におかれた歴史を表しているのだろう。私が行った当時は観光好きの日本人の姿はほとんどなく、西洋人が目立つ。彼らも長い歴史を振り返り、また懐かしさを求めて訪れる、そんな感じを受ける。

 ホーチミン、ハノイ都心部では特に商売を営む華僑が多い。買い物に出かければ街のあちこちで広東語や台湾語が耳につく。ホーチミンのチョロン地区に行くと多くの華僑が住むチャイナタウンがあるが、ほかの街並とほとんど区別がつかない、しかしバスから降りてチャイナタウンを歩くと、ベトナム語と中国語で書かれた看板を掲げる個人商店が建ち並び、飲食店では毛筆で書かれた縦書きのメニューが、ひと目でここがチャイナタウンと教えてくれる。

 また、華僑寺のひとつ天后寺があり、家内安全や家族の健康、商売繁盛を願って、寺の天井から巨大な渦巻きの線香をぶら下げている。そしてチョロン最大の市場、ビンタイ市場は中庭がある二階建ての大きな建物だ。建物内は日用雑貨や洋服屋、コーヒー豆屋やサンダル屋、線香屋に香辛料屋、軽食屋、更に店の端っこにはネイル屋?があり、ここではたくさんの女性が、風呂場に置くプラスチックの椅子に腰掛け、手や足にマニキュアを塗ってもらっている。建物の周りでは野菜、肉、魚などの生鮮三種を扱う店が連なり、どこからどこまでが市場なのかよく分からない。ここでは場所を選ばず商売になるもの全てが密集しているのだ。

 これを定住派商売といえば移動派商売が観光名所に必ずいる俗にいう物売り。販売商品はどこにでもある観光名所のハガキ、Hライターやトランプ、鳥かご付きの鳥?など一風変わったものもある。物売りの中でも今でも忘れられない物売り夫婦がいた。だんなさんはHライターとトランプを売り、奥さんはなぜかハンモックを売る(観光客がハンモックを買うのだろうか?)。人の良さそうな観光客を選んでターゲットにするのがこの商売の決め手になるのだが、この日彼らがターゲットにしたのは私たちと行動を共にしていたOおじさんだった。このおじさん、だれもが認める本当に気の優しいおじさんで、その目尻の下がった優しい眼、ふくよかな顔に体格、身体全身が優しさを表現している。私もこの商売をやっていたら迷わずOおじさんをターゲット?にしているだろう。

 とにかく彼らはOおじさんにくっついて離れない。次の場所へ移動するためバスに乗り込んでホッとひと安心…しばらくバスの中から町並みを見学していると、バイクに乗ったなんだか見たような顔が二つ、ニコニコしてこちらを見ている…そう彼らは50ccバイクにまたがり、Oおじさんを追いかけてきたのだ。Oおじさんの座る窓越しにぴったりと横に付けて走行していた。 私たちが彼らに気づくと、ライター片手にニコニコしながら、「テンダラー(10ドル)」と叫び、後部席では当然のごとく奥さんもハンモック片手に「テンダラー」と叫んでいる。なんて商売熱心な夫婦なんだろう…だがそうそう感心してもいられない、ベトナムは車の走り方がでたらめな上、道路は交通量が多く混雑している。運転をするだんなさんはこちらにばかり気を取られてわき見運転、でたらめな流れの中を縫うように走り抜けるその姿を、バスの中から見ているだけでこっちがハラハラドキドキする。隣の車に接触しそうになったその時、「危ない!」と思いあまって窓を開けて叫ぶと、そんな私たちの心配もよそに、夫婦は「やっと買ってくれるのか」と勘違いの様子…、私たちにライターを差し出し「テンダラー」と叫ぶ。ふうやれやれ…。

 次の観光地へ到着すると、愛しい恋人にやっと出会えたとばかりにOおじさんにまたべったり…。結局、その夫婦は一日、私たちと観光地巡りをし、最後の最後にはその商売にかける一生懸命さと、ここまで本当にお疲れさんという気持ち、また追われるというストーカー的な怖さが入り交じった気持ちが私たちを根負けさせた。もちろんそのライターやトランプ、まさかハンモックは買えないが、彼らが持ち合わせていた在庫を全て購入したのだった。4〜5時間彼らと行動を共にしたOおじさんも彼らとの間に友情が芽生えたようで、在庫がはけて帰る彼らを見つめながら「もう会えないのか…」と寂しそうであった。

 「営業の基本は粘ること」ベトナムの物売り夫婦に教えられたような気がする。

 その後も彼らは独自の商法を続けているのだろうか…。一生懸命はいいがくれぐれも事故には気を付けていただきたい…。



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