花の市

【陸汝富(北京放送)】


イラスト/浅山友貴





 都会に長く住むととかく自然が恋しくなるものです。今北京では、土日の2日間を利用した2日3晩の旅が流行(はや)っているのも、また、部屋に鉢植えを置き、花を咲かせ、緑で飾るのもその現れでしょう。

 そうした中で、「花市(花の市)」が町のあちこちに誕生し、市民の需要に応えています。生け花だけではなく、鉢植えもあります。私の家から最も近くにあるのが西第二環状線阜城門の近くにある花の市です。ここは普段ごく普通の胡同(裏通り)ですが、土日の2日間、人でにぎわい、花や鉢植えでいっぱいになります。種類の多いことと安いことで人気を集め、あちこちから多くの人がやってきます。別に買うつもりがなくても、ただ、人の流れに流されるまま、緑や色とりどりの花を見物するのも楽しいものです。


 花の市の近くに来ると、まず小鳥のさえずりが聞こえてきます。北京では、花の市が立つ日には決まって鳥の市が立ちます。それだけではありません、ペットのペルシャネコも、売りに来ます。ですから、花の市といっても、小鳥のさえずり、ネコの鳴き声といった具合にとてもにぎやかです。これが北京の花の市の特徴かもしれません。

 ところで、花の市ではいま優雅な盆栽が、ちょとしたブームを呼んでいます。値段が手頃で、余り手のかからないもの、それでいて飾っておくと部屋が上品に見える、そんな盆栽がとても喜ばれています。

 北京市の地図を見ますと、「花市大街」という地名が見られます。さらに、東花市大街と西花市大街に分かれ、大きく街の一角を占めています。史書によりますと、その昔ここ一帯は生け花や造花を売る店がならび、花の市が立ったところだといいます。そして、この一帯に住む人も造花職人や生け花の商売人がほとんどで、相当栄えたそうです。もちろん、今ではその面影は残っていません、ただ名前が残っているだけです。この「花市大街」が栄えたのは清朝の中期ころからといいますから、すでに300年以上も昔のことです。

 では、その花や鉢植えはどこから運ばれてくるのでしょうか。北京の近郊に豊台区、黄土崗という村があります。ここはその当時から、村全体が花園になっており、後年「花市大街」がその機能をなくした後も花の栽培は続けられ、花の故郷と呼ばれていました。例の「文革(文化大革命)」時代、「花はプチブル的」といって花畑はすべてつぶされ、強制的に食糧を植え、それ以来、花畑は姿を消してしまいました。改革開放の中で、生活の向上とともに、心にゆとりが出てきた北京市民は再び花を求めるようになり、生け花や鉢植えの需要も日増しに高まり、今では、黄土崗にも昔をしのぐ立派な花畑が作られています。北京市民の花を愛するやさしい心は「文革」で失われる事がなかったのです。花の市に集まる人を見ているだけで、不思議と心が和らぐのです。



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