世界の街角で−−HONG KONG 紀行その2−−
円高の切れ目が縁の切れ目
(七七子)イラスト会見千春


 旅行の楽しさは現地に触れてこそ意義がある、と私は思う…。
  香港の旅は着陸15分前から始まる。雲上を飛ぶ飛行機は厚い雲を突き抜けカイタック空港へと降下していく。天まで届けと言わんばかりにそびえ立つビル群をすり抜け、旋回して羽がビルにぶつかりそうになるのを見てヒヤヒヤ。

 空港に降り立った瞬間、ものすごい湿気が襲いかかり、なんとも不思議なにおいが香港に来たことを体感させる。バスに乗り込みいざホテルへ、まず目に飛び込んで来るのは竹の足場で固められた建設中のビル。町中ではサラリーマンやOLが、一杯200円のお粥をすすり、こざっぱりとした若者達のヘアスタイルが香港人らしさを感じさせる。日暮れと共にネーザンロードに出没するインド人の群れ、怪しげなおっさんが片言の日本語で「ニセモノトケイ」と客引きをし、高級中華料理から一杯200円のラーメン、ペニンシュラのハイティーから町中のホットレモンコーラ、ブランド品から女人街の格安商品。そしていつでも明るく、エネルギッシュな香港人。人々が求めるもの全てが混在し、それぞれに手抜きがない。香港ほどいろんな意味で楽しめるところはない、と私は感じている。カナダのように清潔感あふれる街ではないが、なぜか好きなのは、街に不自然さがなく、生活感が満ちあふれているからではないだろうか…。

 世界中から愛された香港。特に日本人にはハワイ同様に愛されてきたが、それが返還後、人のうわさやマスコミの情報だけでパタリと観光客が減った。不思議である。香港の一体何が好きだったのか?「物価が高くなった」と騒いでいるぐらいだから、やはり「買い物」だけだったのだろうか…。実際には物価も香港の街並も、食事もなにもかもが変わっていない、そう考えるととても残念である。だから、「香港は好き、でももう行かない」と訳の分からないことを言うのだと思う。逆に「そっ、あなたの愛なんてそんなものだったのね」と愛想つかれても文句は言えないだろう。

 一般に「物価高」の原因は、長い年月を通し、経済の発展とともに物価や価値観が変化する場合と、需要供給に伴った一時的な物価上昇の場合がある。香港の物価高の原因の一つに、観光客がヴィトンの財布を安い安いと、10個も20個も購入するからだと言う人がいる。確かに一理ある。香港人にしてみれば、「なぜこんなに高いブランド品を安い安いと言って購入するの?日本人は金持ちなのね」と「金持ち」イメージができ、さらに、実際は100円の商品を500円で販売しても、「あら、これ安いじゃない」と言って購入すれば、「まだ安いのか、じゃもう少し価格を上げても平気だな」となる。あるべくしてある商売の原理であり、商売をしている人なら必然的に分かると思うが…。

 そしてこれらを引き起こしている要因に、日本人の「国際相場の認識度」及び日本の「高価格帯」が絡み、貨幣価値の相違が生じる。以前この状況を私はベトナムで体験している。米ドルで1ドル、当時日本円で100円というバナナ焼を、交渉して半額で買った。ここで私が「日本円で50円ならいいか」と妥協したのは、潜在意識の中で50円、100円は安いというイメージがあるからだ。これは後になって分かったことだが、実際の価格はその最終価格のさらに十分の一。すなわち日本円で5円である。この貨幣価値の相違から生じた買い物の仕方が「金持ち」イメージを植えつけた。私たちが口にする「安い」という価格は彼らにとって利益幅大の価格なのである。そして今問題にされている、日本人価格の設定はこうして生まれているのが現状だ。また、悲しいことに日本より物価の高い国は今のところ見当たらない。故に日本人観光客が集まる所では必ずやこの状況から逃れられないこと、また誤解のないよう認識していて欲しい。

香港HONGKONG…。150の歴史を経て中国へ返還された。前号で話したように返還後4か月経って私は香港を訪れている。あれから何人もの人に「何か変わってた?」と聞かれ、「変わってないよ」と答えるとなぜかみんなうれしそうじゃない。「もう変わり果ててぜんぜんだめ」と言って欲しいのだろうか?。この数か月の間に皆さんの期待にお応えして目に見えて変化していたら、逆にすごいことである。 香港人から見て、返還後目に見えて分かる変化の一つは、香港あてのエアメールの一部に「中国香港」と記されるようになったこと。この記されたもの全てが日本からのエアメールであり、他国からのエアメールには記されていない。これは返還前から全国一斉に中国政府なり、日本の郵政省なりがお触れ書きしたものではなく、日本人のあて名書きルールがしっかりしている象徴である。がしかし、返還前はだれ一人として「英国香港」と記していないのは実に摩訶(まか)不思議なことである。




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