中華街でニイハオ!
赫KAKU


唐朱維さん

  ドドンドドンドンドンドンジャンジャンジャジャジャンジャン。
 太鼓の音、そこにシンバルが重なる。獅子舞だ。横浜山手中華学校の校庭、放課後に練習するのは中学生。獅子の頭に入る生徒と尾に入る生徒が一組になって、太鼓に合わせてステップと頭の振りを練習している。指導するのは横浜華僑青年会の龍獅團のメンバー、みなこの学校の卒業生である。先頭に立ってお手本を示すのが龍獅團團長、唐朱維(とうしゅい)さん、1964年生まれ34歳。
 7、8年前から中学生の指導を始めた。「大人と同じ動きをする本格的な獅子舞です。興味を持つよう、楽しくやれるよう気を付けてます。卒業しても続けてくれるといいんですが。」「獅子舞や龍舞をやる子は、どこかで中国人としての意識を持ち続けているようなんですよ。」と後輩を優しく見守りながら語る。
 獅子舞は横浜中華街の顔である。華僑のお祝い事、特に結婚式に獅子舞は欠かせない。お祝いの席に呼ばれれば北海道、九州まで出かけるという。みなさんご存じの場面といえば、関帝誕(関羽の誕生日のまつり)などに関帝廟で奉納される厳粛な獅子舞、国慶節や春節の舞台で高い台に乗って技を披露する獅子舞、中華街の店を回って採青(ツァイチン)する愛らしい獅子舞、そしてみなと祭りの行列の獅子舞などなど。獅子舞の太鼓の音が聞こえると胸が騒ぐという日本人も近ごろたくさんいる。龍獅團には獅子好きの華僑女性の団員も増えた。こうした獅子が活躍する場には、全体の動きに目を配りながら太鼓をたたく唐さんの姿が必ず見られる。
 「実はぼく、幼稚園のころは獅子や龍って恐かったんですよ。父に連れられて見ていて泣いていた記憶があるんですよ。」でも父親はそれを知ってか知らずか「大人といっしょに混ざってやってみたいか?」「うん。」それが小学1年生、そのうち楽しくてしょうがなくなった。本格的に大人の獅子の中に入ったのは中学1年生の時だった。
 唐さんを團長とする龍獅團、現在団員は40〜50名、19歳から25歳が中心である。実はこの団は92年結成と、歴史は浅い。もちろん唐さん以前にも、横浜の華僑には獅子舞の歴史が連綿としてあって、歴代、青年会「獅子クラブ」が舞ってきた。転機は90年にマレーシアで行われた獅子舞の世界大会に出場したことだった。世界各地からやってきた獅子舞が披露される中、特にシンガポールやマレーシアの獅子舞の水準の高さに驚嘆して帰ってきた。「びっくりしましたね。まるで獅子という生き物がそこにいるように見えたんです。架空の獅子ですけどね。」これ以後毎年マレーシアを訪れ、師父にマンツーマンで教えを請う。「技術的には喜怒哀楽疑驚動静という8種の動作ができて初めて獅子という霊獣の神態を表現できるといわれているんです。」「喜」は「口を開けて目をパチパチまばたきする」、唐さんが頭に入ると、うん、確かに獅子が喜んでいるように見える…。武術としての動きを持つ横浜の獅子舞はこうして今は「動物が舞うような獅子舞」を目指すようになった。96年の世界大会は25チーム中7位。「決勝トーナメントに出られる上位6位までに入ることが目標。」とキッパリ。98年の大会は頭に入る団員が台から落ちて骨折し出場を取りやめた。2000年の大会が待ち遠しい。
 団のこれからは?「中国人はもちろん、興味を持ってくれる日本人も大歓迎です。」「横浜中華街にも、そこでみなさんが獅子舞を体験できるような文化センターのようなものがあるといいですね。」
 自営業の唐さんは「獅子舞は生活の一部」という。いやいや、見るところ獅子舞を中心にして回ってますよ、のめりこんでますね。「古くなった獅子の頭を骨組みだけにして、また装飾して塗料で色を付けるんです。もうすぐ完成するんです、楽しいですよ。」
(インタビュー 新倉洋子)

     



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