凧(たこ)揚げ

【陸汝富(北京放送)】


イラスト/浅山友貴





 凧揚げが全民健康運動の種目の一つになっていることを最近新聞を読んでいて初めて知った。「道理でこのところ凧を揚げている人の姿をよく見かけると思ったら、ジョギングの一つだったのか」と自分で納得した。でも、凧揚げは子供の遊びとばかり思っていたが、子供の姿は見られず、ほとんどが大人、それもお年寄りばかりである。
 私の住む住宅のすぐ傍らに東西に走る復興門橋という立体橋が架かっているが、ここは風がよく通るので格好の凧揚げの場になっており、毎日少ない日でも7、8人は集まる。立ったまま、1時間も2時間も糸を引いて凧を繰っている。それこそ一心不乱である。見るとその傍らで、自転車の荷台に凧や糸など凧揚げに必要な道具を一式そろえて売っている。それを買ってその場で揚げることができるのだから便利なものだ。昔は凧を揚げることより凧を作ることに重点が置かれ、凧揚げは自分の作った凧の出来映えをテストするためのものであった。今では凧揚げを健康維持の手段にし、凧揚げのおもしろさがだんだん多くの人に浸透したせいか、凧揚げ軍団も隊伍を広げている。去年は春の初めに時々ちらほらと見かけるくらいであったが、今年は長い冬が終わった4月の中旬ころから現在までほとんど毎日欠かすことがない。ずいぶん熱心な人たちだと感心する。
 歳時記を見ると、北京の凧揚げは春の行事になっている。それというのも春の風が強いからであろう。今から1800年ほど前の『続博物誌』という書物に、「幼児の体内には陽熱が旺盛で、春になるとその熱がますます旺盛になる。それゆえに、凧を作って高く飛ばし、それを幼児に見せるとよい。幼児は上を向いて口を開くから、体内の熱が口から出て行くので、病にかかりやすい春でも、幼児は無事に過ごせる。」とある。この説も一理あると思う。冬の長い北京、子供たちも冬の間は外で遊ぶ機会も少なく、春になって子供を外に連れ出し、新鮮な空気をいっぱい吸わせ、春の日差しに当たるだけでも子供の体によいのだから…。
 北京では、毎年5月中旬に陶然亭公園で凧揚げ大会が行われる。私も一度見に行ったことがあるが、まさに百聞は一見にしかずである。空一面に飛ぶ何百もの凧、その壮観な情景に圧倒されたのを今でも覚えている。ここは日ごろの凧作りの腕を競う場でもあり、人一倍に高く飛ばせるだけでなく、その作りの立派なことが採点の重点になる。人字型に隊をなして飛ぶ雁、本物そっくりで、それが凧と分かった時にはその作りの見事なことに感嘆させられる。このほか、100メートルもあろうムカデ凧、これを揚げるのに20人の大人が指揮者の音頭でエンヤコラサと、綱引き同然の格好で揚げるのだ。身をくねらせながら空に昇っていく様は、あたかも巨竜が天に昇るようで、その壮観な姿には圧倒される。


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