(No.17-9910)【曽徳深】


 菜語茶談「香港のコックがチーフだそうですが、日本人の口にあわして作るように指示を出しているのですか?」とよく聞かれる。答えは「否」である。むしろ香港の味そのまま出すように言っているが、ではなぜ日本人の味覚に合うのか?
 理由は3つ考えられる。
 1つめの理由は、日本人の多くが、外国旅行で、舌と胃袋が「国際化」している。だから、よっぽどのことがない限り、ほとんどのものを受け入れる「舌と心」の準備ができている。
 2つめの理由は、料理の素材にある。素材とは、肉・魚・野菜・乾貨はもちろん、油、調味料、香辛料、水までを含む料理の材料となる有形物すべてをいう。それら有形の素材を、無形のコックの腕が一皿の料理に仕上げる。料理の味は、大地が生み出した素材が持つ本来の味を、コックの腕によって具現化したものである。日本の大地が生み出した素材が日本の味を作る。一杯の日本そばで、輸入品でないものは水だけと冗談半分に言われているように、日本の食品の多くは外国に頼っている。それでも日本的な味を決定付けているのは、日本の醤油ではないかと思う。一さじの醤油がビフテキの味を和風味に変えてしまう。
 3つめの理由はコックの味覚である。コックの腕が素材の味を引き出す。素材を見る目、包丁さばき、鍋さばき、どれもおいしい料理を作り出すのに欠かせない腕の要素であるが、一番大事なのは味覚である。よいコックは繊細にしてかつ敏感で幅広い味覚を持っている。一流のコックは日本に上陸して、旬日にして日本の味覚を識るのである。


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